第15回

<IT革命の意外な効果>

 やおい漫画を輸出し、向こうのslash小説を訳すようになってから、そろそろ2年の月日が経とうとしているわけだが、アメリカ人と日本人の差がこのところどんどん縮まっているような気がするのはスラッシュ君だけだろうか?

 特に両者が相互乗り入れしているジャンルである「スターウォーズ」ものでは、「海外交流」が盛んに行われている。コミケでは外人さんがスターウォーズ本を買い漁っている風景が見られるし、日本の同人作家のホームページには海の向こうからの問い合わせ・購入依頼メールが殺到していると聞く(その際、「総受け」をall recieveと訳されて大受けしたとか……)。向こうのスラッシュ作品の解説本を出される同人作家さんもいれば(漫画になるとその迫力に圧倒されます! やっぱり絵の力は偉大ですな〜)、自作を売るついでに向こうの作家さんに向こうの同人誌を買ってきてと頼む剛の方もおられるようである(こういう世界にはGATTとかWTOとかは金輪際必要ないでしょう!)。

 アニメ関係の日本語も日常的に使われており、ヤオイ、ウケ、セメはもちろん、セイユウ、djs(同人誌)・djska(同人作家)などはほとんどそのまま通じる。タタミ、フトンをはじめ、ツナミ(日本のスカパーでもやっているアニメ専門ケーブル局のカトゥーンネットワークでは夜のゴールデンタイムに日本のアニメを大量に流す時間帯があり、カトゥーンにひっかけて、「カツーンナミ」と呼んでいるそうだ)までが英語化している。

 そんな風に同化現象に慣れてくると逆に、たま〜に、出喰わすカルチャーギャップが妙に新鮮だったりする。

 たとえば「ヘンタイ」という言葉。これは日本では「変態プレイ」とか「やめろよ、変態!」みたいに異常性愛偏愛のような意味あいで使われる言葉である。が、海の向こうの人々の間では、「男性向けの日本製ポルノ」(要するにアメリカじゃああんまりおおぴらに流通できないロリコンアニメものですな)のような意味で使われている。向こうのHなアニメホームページにやたらと「HENTAI」の言葉が表示されているのをみかけるたびに妙だなと思っていたのだが、そのせいだったのだ。一体どうしてヘンタイがそういう意味になって伝わってしまったのかはよく分からない。知っている人がいたら是非、スラッシュ君にご一報いただけるとありがたい。

 そして、日米で違うな、と感じるもう一つの点は、ジェスチャー、動作、である。何かを誓う時に指を絡ませたり、くしゃみをするときに「God, bless you」などと声をかけるなどの習慣の違いもさることながら、無意識の動作にも思いがけない違いがあったりする。

 スラッシュ君がこの間訳したスターウォーズもののスラッシュでは、ガッカリした登場人物がガックリと膝を折るシーンがあったのだが、その人物、ガックリする前はイスに座っていたのである。「座っているのにさらにどうやって膝を折れるの?」とカナダ人に質問したところ、「イスから地べたにずり落ちて膝を折るんだよ」と教えてくれた。で、そのカナダ人は「日本の時代劇とかで、サムライが落胆するときにいきなり立ち位置から地べたに崩れ折れるシーンがあるけど、ああいう動作ってこっちではめったに見ないよ」という。しゃがむというのは案外、大変な動作らしく、教会で祈るときも、一旦イスに座ってから地べたに座るのが基本だそうなのだ。道理で西洋人が和式のトイレや正座を嫌がるわけだ。


<タマは自立するか?>

 ところが、同じスラッシュの中の次の一文に遭遇したスラッシュ君はウ〜ンと頭をひねってしまった。

「he other hand caressed his balls and left them pulled up tight against his body in arousal」(=もう片方の手はオビ=ワンの睾丸を撫で回し、欲望でたぎった双球は身体のほうへギュッと引っ張られた)

 この文章には「タマ」が上半身のほうへ動くようなことが書いてある。スラッシュ君はてっきり、「つまりこれは勃起したサオがタマを引っ張ったんだな」と思い、念のためにカナダ人に確認してみた。ところが、

「違うよ。興奮するとタマはひとりでに動くんだよ」

 という。スラッシュ君は仰天した。男性のタマはそんなことで動いたりするものだったのかあああ? で、手近な家族に聞いてみた。

「寒ければ縮こまる、暑ければダレるように感じるだけ。特に動いたりしない」

 だそうだ。それならば常識の範囲だ。で、スラッシュ君はカナダ人に「それっていわゆる女性のこうあってほしい願望的表現か?」(よくヤオイ小説なんかにある、女性性器でもないのに「濡れてきたな」とか、「さっきやったばっかりなのにもう袋が重くなっているなんて、スケベだな」とか等の非常に現実離れした幻想的な表現)と聞いたところ、

「違うよ。実際、動くんだってば。職場の隣に男に聞いたけど、彼も『絶頂が近づくと睾丸が立ち上がって(堅くなって)体のほうに向く』って言ってるよ」

 と言うではないか。へええええええええええええ。これはもう調査するしかない。こういうときに威力を発揮するのが電子メールだ(情けない用途だな)。今や日本でもほとんどの企業が導入を完了している。いまどきのOLは社内メールを使って企業を越えた井戸端会議に花を咲かせているのである。

 で、あっという間に調査し終わった結果、全員(の彼氏)が、

「ほとんど動かない、または動くと感じない」

 と答えた。どうも日本人というかモンゴロイドは動かないと感じる民族のようなのだ。中には「怒って教えてくれなかった」という女性もいたが、女性のほうで「こんなこと聞けない」という例は皆無だった。つまり女性は何でも話しているんである。恐ろしい……。

 スラッシュ君も職場で何人かの男性社員にメールで聞いてみた。「そんな質問に答えてくれるのか? 日本人はシャイなんじゃないのか?」とカナダ人に聞かれたが、好奇心がそれに勝る場合は別儀みたいだ。そしてスラッシュ君が聞いた男性社員が偏っていた(そういう質問にフランクに答えるくらいだから)せいなのか、驚くべき回答が来てしまった。
 
 回答者A(とても英語ができる人で向こうのポルノ小説もよく読んでいる。もちろん原書で):「個人的な経験を日本語で表現すると、睾丸が上に上がるような気がします。身体のほうに引っ張られるという感じはあまりなく、陰嚢が丸く、やや大きくなって膨らんだような気がしますが、これは単なる気がするだけで、大きさ自体は変化ないように思います」

 なんと日本男子なのに、「動くと感じる」と言うのだ。そしてその直後、また衝撃の発言が……。

 回答者B(セックス関係の情報に詳しい。「性人伝」などの著作がある、いそのえいたろう氏を師と慕っている):「ものすごく興奮して勢い良く出る時は、ギューッと搾り出される感じがする。ブルブルってタマごと震える感じ。タマが動かない、動く感じがしないっていう人はいいセックスしてないんじゃないの? え? セックス回数が少ないからそういう感じがするのかって? いや、少ないとすぐに出ちゃうから逆に勢い良くは出ないもんだよ……(以下いろいろ語ってくれた)」

 その後、各企業の女子社員の間を駆け巡ったメールの結論としては、

 「アメリカはカップル文化の国だからセックスがマンネリ化しないようにいろいろ極めているんだろうねえ。日本人は奥さんとはあんまりしないでしょ(会社でも奥さんとオーラルセックスしている中年社員は少ないもん)。外でもサッサとすまされちゃうじゃない。同じ人ととことんする必要がないわけよ。で、男同士って案外、自分のあっちの具体的な話ってしないらしいの。劣等感に駆られるから。というわけで、タマ感覚を極める機会がなかなか無いのかもね〜」

 と……。

 今までは電子メールのようなお手軽でかつ、コッソリとH話ができるツールは無かった。なのでお互いセックスのときにどうしているかなどは知らずにすんでいた。だが、これからは企業、民族を超えて猥談がリアルタイムに取り交わされる結果、肉体的な感覚の東西差もなくなっていくのかもしれない……「シモIT革命」は今、確実に進んでいるのである。

(次回に続く)


[文:スラッシュ君 010221]

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