第17回

<若くて無力なサイレントマジョリティーは「アニメ」と「ネットオークション」がお好き>

 『VOICE』ではお隣りさん同士のアライユキコ(『フリーペーパーつくります』を連載)からメールが来た。

 アライが出しているフリーペーパー『カエルブンゲイ』には、「一気読み」という名コーナーがあるが、そこで今度「やおいマンガ」を取り上げることになったと言う。ある特定分野の玄人が推薦する本をズブの素人に一気読みさせ、素人が新鮮な(時としてアサッテな)感想を言うという、「その分野の必読本をビギナーに紹介する」にはうってつけの心憎い企画である。で、不肖スラッシュ君にやおいマンガのセレクションをしてもらえない? と言うのだ。

 「えええ〜あたしゃ、ただのしがないやおいマンガ好きなだけで、その道の専門家というにはあまりにおこがましいのでは?」

 と言ったところ、

 「でもアメリカ人にやおいマンガの紹介をしてるじゃない。アメリカ人も日本人の素人も一緒でしょ」

 と反論されると、

 「ああ、なるほど」

 と妙に納得してしまった。

 確かにスラッシュ君は「お勧めやおいマンガ」なんてページもアメリカ人のサイトに作ってもらっているし(そのせいで見ず知らずのアメリカ人から「●●のマンガを是非、読んでみたいので入手方法を教えてください」などというメールがしょっちゅう来る)、購買意欲を煽るのが、いつのまにか得意になってしまったかもしれない……。

 というわけで、アッサリ引き受けることに(6月4日には店頭にならぶ予定の『カエルブンゲイ』9号に載っています。よろしかったらご覧になってくださいませ。くわしい入手方法はこちら。「青山ブックセンター」のオンラインショップで本を買っても、もれなく付いてくるそうです)。


<アニメ戦略の重要性>

 で、早速、知人の外人数人に「そっちの国で人気のあるやおいマンガってとりあえず何?」と尋ねてみた。スラッシュ君の趣味だけで選んで偏るのも何かなと思ったのだ。すると、意外な結果が返ってきた。回答リストの中に

・『フジミオーケストラ』(邦題は『富士見二丁目交響楽団」シリーズ)
・『間の楔』
・『ボクのセクシャルハラスメント』

 が入っているではないか。いずれも原作は「小説」なのである。一体どういうわけか尋ねたところ、意外な事実が判明した。どれもが、

 「アニメ化されている」

 のだ。『ボクのセクシャルハラスメント』なんぞは、スペイン語やイタリア語にも吹き替えられているという。つくづく映像の力には偉大なものがあると思い知らされた(単にダビングしやすいだけということも言えるが……)。同じやおい系漫画でもビデオがあると無いとでは、海外での知名度に大きな差があった。なので、もし海外で知名度をアップさせたいと希望されるやおい系作家の方または出版社がおありなら(ないか……)、「作品のアニメ化」は必須戦略と言えるだろう。

 やおい漫画購買代行を始めて以来、「『グラビテーション』(WOWOW放映以前にOVAが出ていた)の同人誌を買って来い」と、やたらにアメリカ人達から頼まれたのも、そのせいだったのだ。フ〜〜〜〜〜〜ム。なるほど。私らが「向こうの無修正美青年ホモビデオが見たい!」と思うのとまあ、同じわけだな。


<若い男の子キャラがとにかくいっぱい出てくるアニメが人気>

 さらに別のアメリカ人からはこんな質問が来た。

 「『人気があるやおいマンガ』には、原作が『やおいじゃない普通のアニメ』っていうのも含めていいの?」

 日本のアニメや漫画も海外に広く知られていることはフレデリック・ショット(Frederik L. Schodt) 、マット・ソーン(Matt Thorn)、トーレン・スミス(Toren Smith)ら専門家のおかげで広く世間に知られるところであるが、女の子のアニメファンの実態はあまり伝えられてこなかった。面白そうなので、早速どんなものが人気があるのかと、再び数人に質問してリストを送り、返って来た結果がこれである(順不同)。

海外の女の子に人気のあるアニメ:

1. Gundam Wing   
2. Fushigi Yuugi
3. Digimon
4. Dragonball Z
5. Final Fantasy
6. Weiss Kreuz
7. Yuu Yuu Hakusho
8. Rurou ni Kenshin 
9. Neon Genesis Evangelion
10. Yoroiden Samurai Troopers/Ronin Warriors
11. Ranma 1/2
12. Card Captor Sakura
13. Tokyo Babylon
14. Bakuretsu Hunters
15. Sailor Moon
16. Pokemon
17. Slam Dunk
18. Saint Seiya
19. Berserk
20. Trigun
21. Initial D

 特に1の『Gundam Wing』は最近放映が終わったばっかりらしく、向こうではメチャメチャ人気があると言う。

 「1x2, 2x1, 3x4……って感じにどんどんファンが増えているのよ〜」

 と言われた、普段あんましアニメを見ないスラッシュ君(前のシーズンでも、見たのは『哲也』と『グラビ』『闇末』くらい。その前は『エクセルサーガ』だけだし……)は、『Gundam Wing』が『新機動戦記ガンダムW』のことだとは知らずに、「1x2ってファーストガンダムとZガンダムのこと?」などという超ド素人な返答をして、アメリカ人を死ぬほど笑わせてしまった。

 「オ〜、ユーは本物の『Gundam Wing』ファンじゃないですねえ。『GundamWing』にはいろいろな国のキャラが複数出てきて、それぞれ、ヒイロ、デゥオ、トロワ、カトル、張五飛などと、その国の数詞が名前に付いているのよ。で、それぞれのカップリングにファンがいるのよ〜」

 と言う。なるほど、失礼しました。また、『るろうに剣心』は今まさに放映中なので、その同人誌が向こうではとにかく人気があるという。魅力的な若い男の子がたくさん出る作品というのが基本で、その点『Weiss Kreuz』や『セーラームーン』(「衛が時々、悪役4人組の王子様になるから」<=う〜ん。そうなのかあああ)はツボなんだそうだ。で、気になったのがあんまり青年アニメが含まれていない点だ。

 「『ベルセルク』とかも濃いファンはいるけど、この手のアニメファンは結構保守的だからムサい男はあんまし人気ないのよ〜」っていう発言だ。

 スラッシュ君が属している向こうのMLでは「ゴージャスなアダルトな男」が大人気なのに……。こ、これは一体、どういうことなのだろう? それは、やおいファンとこの手のアニメファンとでは、「年齢層が違うから」なんだそうだ。そこで向こうのアニメファンの特徴を尋ねてみた。


<海外女の子アニメファンがやおいファンになる基本的な道のり>

 ●多くがアジア系(親がアジア人だとか、親の仕事の都合で一時期アジアにいたことがある)。
 ●年齢が若い(中学、高校生から大学生)。
 ●金が無い(クレジットカードが持てず、成人指定も手伝ってヤオイマンガやビデオをバンバン買ったりはできない)。
 ●日本語は読めない。
 
 という。では彼女らはどうやってやおいマンガに触れる機会を持つのだろうか。彼女たちのやおいデビューの主な方法を聞いてみよう。

第1段階)テレビやケーブルテレビのアニメ専門局でアニメを見る
第2段階)英語のビデオ屋でアニメテープを借りる・知人から借りる
第3段階)インターネットのアニメサイトを巡回する(ネットにはヤオイ系アニメページが数多くアップされていて、同人誌から違法にスキャンしたイラストなんかがアップされている。そういったサイトのチャットやMLで、夜な夜な好きなキャラの話をするんだそうである)
第4段階)ネットで知り合ったファンからちょっと怪しいやおいアニメテープを借りる。
第5段階)英語や中国語に翻訳されたやおい漫画を「ネット上」で読む。もちろん海賊版。
第6段階)ネット上のアニパロやおい小説を読む・書く
第7段階)e-bayなどのオークションでヤオイ漫画や同人誌を安く買う・知人と同人誌を貸し借りする。
第8段階)学校のアニメクラブに入ってマニア間の連帯を図る、または、キング・オブ・マニアとしてグループ内の覇権を取る。

 だそうだ。

 特に第7段階の「オークション」はとても盛んで、意外な掘り出し物を売っていることもあるが、概して日本の中古屋よりは高めの値段で取引されている。みんな、オークションでは常識のインターネット決済サイト「paypal」の会員になっていて、paypal口座間の少額のやりとりをネット上で即時&無料で決済している。電子マネーとか言ってサイバー系のビジネスマンがもたもたしている間に世界はこんな状況になっていたんである。日本の同人作家の方たちも将来来の海外販売に備えて是非、この機会にpaypal会員になっておくことをお勧めする。
 

<異文化との接触が常に表現を進化させる>

 スラッシュ君としてはちょっと第5段階の「ネット上のアニパロ小説」っていうのも気になったので聞いてみたところ、「いっぱいあるし、Hな名作もあるよ。アジア系で英語のできる人が書き始めたんだけど、訳したい? 教えてあげようか?」という。そんな「いすずのベレット1600GTを海外から逆輸入するような」酔狂な趣味はさすがにないので丁重にお断りしたが、ファンの人ならトライしてみるといいかもしれない。

 というのも、毎月『Gファンタジー』を買ってあげている外国人ファンからお礼に向こうのアニパロマンガを送ってもらったのだが(もちろん『最遊記』もの)、Hシーンを見て思わず、「!」とさせられたからだ。何というか、日本のマンガとちょっと違うので、焦るというか、ドキマギするというか、来るものがあるというか……要するに

「とっても新鮮」

 だったわけだ。

 「新鮮」……。これはとっても大事なことである。セックスだってマンネリにならないよう、みんな無い知恵を絞っているではないか。浮世絵が印象派を生み出し、19世紀末の考古学発掘ブームが「モダン・プリミティブ・アート」を生み出したように、ひょっとすると、この手のアメリカ人が書いたアニパロやおいマンガが日本のやおいマンガ家に大きな刺激を与えるかもしれない。そのためには不肖、スラッシュ君はいつでもこの手の海外アニパロやおいマンガをお貸し出し・代行輸入いたしましょう。というわけで日本の作家の皆さん。お気軽にお声を掛けてくださいね(なあんって、早い話が「より刺激的なH表現を描いてもらいたい」だけだったりするんだけれど>結局、それかい!)。

(次号へ続く)


[文:スラッシュ君 010528]

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