スラッシュ君
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第29回

<江川が慶応に合格していたらスラムダンク同人誌は描かれなかったかもしれない?>

 アメリカ人が「某やおい漫画大先生のスラムダンク同人誌(三暮本)の最新刊を買っておいてくれ」というので通販で代理購入してあげることにした。

 原作の連載終了からもう何年も経っているので、三井君は実業団に入っていたし、リーマンの木暮君は休日、子供たちにバスケを教えていた。社会人になっても、2人は共にバスケに明け暮れた青春時代をとっても誇りにしていて、スポーツはからきしダメなスラッシュ君も読んでいて非常にすがすがしい気分になった(社会人のセックスシーンはただれていたが……)。


<アメリカの学校では、スポーツマン=ジャイアン>

 ところがアメリカの学生にとって「スポーツが得意な学生」というのは、そんな「すがすがしい気分」を抱けるような対象では、どうも無いらしいのだ。

 というのも、スラッシュ翻訳ネタ漁りのために日夜アメリカのTVドラマを見まくっているスラッシュ君はこのところ、「スポーツが得意な学生を敵視する」「スポーツ特待生を優遇する風潮を批判する」ような若者・学園ドラマを立て続けに何本も見てしまったからだ。

その1)『Ed(エド〜ボウリング弁護士)』
 妻に不倫され田舎に戻ってきた元エリート弁護士のエドは、高校時代あこがれの的であり、当時、プロムクイーンだったキャロル・ベッシー(今は高校教師)の便利な相談役。キャロルは自分の優秀な生徒が体育で落第点を付けられ、奨学金が打ち切られそうなことに腹を立て、エドに相談、体育教師に抗議に行く。が、体育教師は6年前、キャロルに悪い成績を付けられ、スカウトが来る試合に出られず、大学のバスケ選手になる道を断たれてしまい、コンビニ店員に甘んじている青年の姿を見せ、「その仕返しをしたまでだ」と言われてしまう。 

その2)『ボストン・パブリック』
 公立高校のお堅い女教師のローレン・デイビスは不真面目なフットボール部の選手に「F」の成績を付けたところ両親が怒鳴り込みに来る。「F」では、有力大学のスカウトが見に来る次の試合に出られないからだ。その後の回では、サッカー部員が共謀してテスト問題を盗み出すという不正を知ったスティーブン・ハーパー校長が部員全員を停学処分にし、部員の親にこれまた「進学のチャンスを奪う気か?」と怒鳴られていた。

その3)『スモールヴィル(ヤング・スーパーマン)』
 スモールヴィル高校のフットボール部を25年間指導してきた名物鬼コーチは、超能力を使って校長を焼き殺す。部員たちが中間試験で不正行為をした(そそのかしたのはコーチ自身!)ことを知った校長が、州選手権への出場が決まる大事な試合を前に、部員を停学処分にしようとしたからだ。同高校の生徒であるクラーク・ケントはその特殊身体能力を買われ、入部を勧められ、両親やあこがれのマドンナ、ラナ(ラナのボーイフレンドのホイットニーはフットボール部のキャプテン)も応援する中、コーチの正体を知り、試合を途中放棄し、コーチと死闘を繰り広げる。

その4)『デュー・サウス(騎馬警官)』
 シカゴの貧民窟で有望な黒人の若者を援助&育て上げ、プロバスケット選手にしてやっている街の篤志家コーチ、ルーは、敵対するグループをピストルで撃ってしまった有力選手をかばうため、選手になるには才能が足りない無い若者、タイリーに罪をかぶせようとタイリーの家族を盾に脅す。ルーは裏ではバスケ選手になる才能がない黒人の若者たちをギャンググループに入れて稼がせていた。

他にも『ロズウェル』では最初の内、鼻持ちならないヤツとして悪役だった保安官の息子カイルは、バスケット部の選手で学園のスターだったし、『Ed』でキャロルにつきまとっていたオタクな高校生ウォーレン君(「スタートレック」のパロディ映画、『ギャラクシー・クエスト』でもジャスティン・ロングは、熱烈な番組ファンでオタク学生のブランドンを演じていた)のあこがれの女子学生ダイアン(例によってチアリーダー)の彼氏はフットボール部の人気者で、これまた傲慢で嫌なヤツという設定だった……。


<上位10パーセントのスポーツマンが学校を支配する>

 アメリカではスポーツが得意というだけで絶大な権力を誇り、女子学生からはメチャメチャモテるらしい。その結果、ごく普通の学生であった多くの視聴者から激しい妬みを買っているというわけだ。

 日本にだってスポーツ特待制度はある。でもこれほどまでに妬まれたりはしない。なんでだろう? と考えていた時、当コラムの「トンデモ受け攻め論」(第27回)を読んだアメリカに住む日系のご婦人(男の子二児の母)から賛同のメールをもらった。

 今までいろんな外国人やおいファンと片言の英語で話す機会はあったが、子持ちの女性で、しかも、流暢な日本語でメールをやりとりする機会などスラッシュ君には皆無だったので、たちまち日米の子育て観の違いや、学校制度の違いについての話題に花が咲いた。
 
 アメリカには子供にとって良い点が本当にいっぱいある。土地が広いから遊ぶところには困らないし、厳しいレジデンシー修行によって医者の質は高いし(日本では腸閉塞で苦しむ5歳の男児が救急医に放置された末、死亡する事件が起きた。もちろん医療訴訟大国アメリカでは考えられないことだが、無医村どころか、東京の「東部地域病院」で起こったのだからほとほと呆れてしまう)、優秀な高校生のクラスでは大学並みに高度な授業が行われているという。

 だが、そんな素晴らしいアメリカの学校生活も、スポーツが不得意なオタク君にとっては、必ずしも快適とは言い難いようなんである。

アメリカ人(以下「ア」)「中学校(6〜8年生)の入学説明会に息子と行ってきたのですが、10歳にしてもう既にポピュラー・クリーク(Popular clique=人気者の派閥)とそうでないグループに分かれてたんですよ」

 ポピュラー・クリークの子供たちは明らかにルックスが良く、スポーツマンタイプで服装も流行のものを着用しているという。メガネっ子や細くて弱々しい子は最初から仲間外れなんだそうだ。

ア「先日、テレビ番組でいじめ問題が取り上げられていましたが、ポピュラー・キッズと呼ばれる、全体のうちの10%くらいを占める子供たちが、アメリカでは中学、高校の実権を握っています。生徒会を牛耳り、プロムクイーン、スポーツチームのキャプテンの座はすべてポピュラー・キッズが独占し、グループに入れなかった子供たちに対して威張ったり、いじめたりしているんです」


<クラブ活動なら何でもいい日本とは大違い>

 驚くことにポピュラー・キッズによるいじめ問題には「先生」までもが荷担しているという。

ア「一番問題なのは、先生たちもポピュラー・キッズをひいきしている点です。自分たちも昔、ポピュラー・キッズになりたかったがなれなかったコンプレックスを引きずっていて、教師になった今ならポピュラー・キッズたちにバカにされずに済むという思いがあるからだそうです」

 ううう。先生は誰もが『NARUTO』のイルカ先生みたいであってほしいのにィ(注1)。

ア「協調性よりリーダシップを重視するアメリカの名門大学は、生徒会やスポーツチームのキャプテン(向こうでは強い選手がキャプテンになる)を務めるポピュラー・キッズを高く評価し、入学させたがります。他の文化系クラブは大学入試には重要視されません。音楽活動だけは大学によっては多少認めてくれますが、それでもアイビーリーグなどでは無視されます」

 じゃあ「漫画研究会」なんて入っていたら全然ダメじゃん。

 スラッシュ君は阿部川キネコ先生の大傑作『辣韮の皮』(注2)というギャグ漫画が大好きなのだが、あの作品ではヒーローのオタク賢人、泉先輩(きゃあ!)もアメリカの学校では外見だけでルーザー扱いされてしまいそうだ。インテリ策士の新寺だって生徒会長になれたかどうか……。

ア「本を読むのはインテリ階級だけじゃないでしょうか。読書は少し変った趣味とされていて、本が好きな子供は『本の虫(Bookworm)』などと呼ばれバカにされるくらいです」

 とにかく人気の基準がスポーツ一辺倒なのだ。どんな分野であれその道に秀でていればそれなりに尊敬されてしかるべきなのに。そもそも英語には「〜〜道を極める」という言い方自体が無いのだという。

 生徒を量るものさしが一つしかないっていうのはかなり辛い。いろんな個性の学生がいて、めいめいが自分の好きな得意分野を伸ばし、『辣韮の皮』のジャスティスのように、教師もそれを奨励すれば学校はずっと楽しいところになるはずなのだが……。そしてこの差別は大学でも続く。 


<人気者グループによる選民思想は大学にも蔓延>

 戦後定着した習慣らしいが、アメリカの大学にはクラブが無い代わりに、フラタニティー(fraternity)と呼ばれる排他的な男子学生社交クラブとソロリティー(sorority)と呼ばれるこれまた排他的な女子学生社交クラブがある。

 合宿などで(もてない)男女がのどかにゴロ寝をしていた漫画倶楽部出身のスラッシュ君にとっては、性別に分かれているところが何とも悲しく映る。

ア「女性のソロリティーは美人系、お金持ち系、ブス系、ちょっと可愛くて誰とでも寝る系、ガリ勉系などに分かれています。こちらの大学ではクラブがほとんど無いけれど、その代わりに、気の合う友人を作るため、こういった制度があるのかも。でも誘われなければ入れないところが排他的ですよね」

 いまや有力フラタニティーに所属していないと社会の要職には付けない、とまで言われている。先輩からの嫌がらせに近い入会儀式を必死に耐える新入生の姿はアメリカの学生映画でよく見られる風景である。

 が、それにも増して学生社交クラブは「入会できないと男女交際すらできなくなってしまう」組織なのである。

ア「大学内の社交場はフラタニティーがメインなので、男は入っていないとパーティーに行けなくなります。合コンという習慣が無く、フラタニティーのパーティーに女はナンパされに行く、みたいな感じ。気に入ったら、部屋まで連れ込み、セックスできるし。シャワールームで女の子を廻したりします」

 学生社交クラブはアメリカのカップル文化を支える、もはや不可欠の存在なのだ。どこかの大学のヤリサーで大騒ぎする日本なんてカワイイものだ。

ア「アメリカのカップル社会は中学あたりから始まって、カップルではない付き合いはあまりありません。学校のダンスパーティーは中学生でもカップルで行くのが当たり前。高校最後のビッグイベント、プロムはカップル以外の参加は禁止されている高校が殆どです。大学の各フラタニティーでは冬と春に、フォーマル着用のパーティーを開きますが、フラタニティーに入っている男に誘われないと女性は参加できない。だから女子学生は彼氏探しに必死になるんです」

 そうか。のんきに同人誌なんか書いていられないわけだ。   

ア「彼氏がいない人は社交の場に出られないのでとても不自由です。殆ど全員が彼氏と始終つるんでいるので、彼氏のいない女子は悲惨。女友達がいても彼氏が出来ると途端に無視されるし。そのプレッシャーが欲しくない人たちは女子大(とくに有名私立)に集まります。そういう大学に行った友だちによれば、男がいないので、ルックスに気を遣うこともないし、男に媚びる必要も無いので、ノビノビ過ごしたって言ってましたよ」


<スポーツマン教育は赤ん坊の時から始まる>

 教師ぐるみのひいき構造によって、最下層に置かれた子供たちが「アンタッチャブル(不可触卑民)」と呼ばれてしまうほど、学校内階級制度はガッチリ定着しているし、人気者による支配は大学まで続くので、スタートダッシュで出遅れまいと思うのも、親なら当然だろう。

 なのでアメリカのお母さんたちは子供の服装にとても敏感にならざるを得ない。子供に個性的なオシャレをさせたい、というのでは決してなく、早い内から人気者グループに入れるのに相応しい一定の条件をクリアした一種の制服を着せなければ、というのである。

 そしてそれは赤ん坊(!)の頃から既に始まっている……。

ア「アメリカでは赤ちゃんの時から性別をハッキリ意識して育てます。女の子はピンクのピラピラ服、男の子は青い男らしい服、といった風に。日本にあるような(シックな)ユニセックス風赤ちゃん服など売っていません。子供部屋のインテリアも明らかに男か女と分かるようにする。男の子は小学校に上がる頃には、『自分は男であるから強く、男らしくあらねばならない』と意識しています。ハンドバッグに見えるような鞄を持っていたり、少しでもピンクがかった色の入った服を着ていたら、即、ゲイとからかわれます。体の小さい子、スポーツのできない子も同様です。アメリカ人は子供の頃から『マッチョであること』にこだわるんです」

 結果、アメリカでは教育ママならぬスポーツママが誕生する。

ア「こちらの一流大学は皆、勉強以外の課外活動を重視するんです。特にスポーツ面での活躍が大切なのですが、中学・高校のスポーツ活動は入部テストが必要なチーム制で、下手な人は切り捨てられます。だから中学、高校からやったのではもう遅いんですよね」

 おかげで幼稚園の頃から皆、子供にはサッカーや野球、アメフト等をやらせ、女の子なら体操やチアリーダーなどのチームに入れるという。

ア「日本の受験勉強とはまた別の意味で大変です。自動車以外の交通手段が無い郊外に住んでいる私は子供の送迎で大忙しです。合気道、水泳、バスケと殆ど毎日スポーツをさせている。秋のアメフトが始まると、これまた大変。練習と試合が殆ど毎日あるんですよ」

 アメリカの男の子たちは幼い頃から集団スポーツに参加させられ、いい成績を上げろとママに尻をた叩かれる。スポーツが不得意だと将来とっても辛い目に合うのが目に見えているからだ。


<すべては名門大学=私立の高すぎる授業料のせい>

 アメリカでは人気がないと思われがちなサッカーだが、アメリカには「サッカーマム」(アメリカTVアニメ『キング・オブ・ザ・ヒル』でハンク・ヒルの妻ペギーが「おハイソでいけすかない」と毛嫌いしていた母親集団のこと)と呼ばれる母親グループがいて、息子たちのサッカー活動サポートに余念がない。中流家庭出身の彼女たちは皆、高学歴で教育熱心だ。その底にはスポーツ特待生で息子を一流大学に入学させてやろうという母心である。

ア「アメリカの一流大学はアイビーも含め、すべて私立大学なんです。公立大学は誰でも入れるというのがモットーなのであまりステイタスが高くありません。そして私立大学は年間5〜7万ドルもかかります」

 日本の大学がせいぜい1〜2万ドル程度なのに比べて遙かに高い。なるほど。日本にもスポーツ特待制度はあるが、普通に勉強して大学に入学してもそれほど費用がかからないから羨ましくないわけだ。それに日本のトップレベルの大学はスポーツ特待制度を採用していない。得意分野で学校がパッキリ分かれているのでお互いを羨ましく思ったりしないのである。アメリカはスポーツ特待生と勉強ができる学生とが同じ名門大学に入れるので庶民の妬みを買いやすいのだろう。


<大学入学の沙汰は金次第。学問に王道アリのアメリカ>

ア「アメリカの大学スポーツはクラブで行われるのではなく、大学自体がスポンサーとなって、お金儲けと名前を売るための事業として行われます。スポーツチームが有名だと試合でお金が儲かる、寄付金も多くなる、大学の名前が有名になる、というわけです。大学スポーツでも規模の大きいアメフトやバスケは観客が何万人も集まり、テレビでも放送され、人気もプロスポーツ並みなんですよ。スポーツで有名な州立大学などでは奨学金どころか自動車やコンドミニアムまで買い与え、いい選手をスカウトします」

 スポーツの得意な学生を入学させれば大学は儲かる。だからアイビーリーグなどの超一流校は無条件でスポーツ特待生を取りたがるのだ。たとえ成績が悪かろうと……。

 さらにアイビーリーグの学生の3割くらいはコネで入学しているという。

ア「アメリカの名門校は私立なので寄付を歓迎するし、入学基準は勝手に決められます。エリート意識の高いアイビー校は、入学枠の3割を、卒業生、多額寄付者、教授などの子供たちに当てています。だから成績が一般応募者よりずっと低くても入学できる。逆に、一般応募者の場合は大学が公表している平均入学者の学校のランキング、SATの成績よりずっと上でなければ入れません。でも、こういった寄付金付きコネ学生のおかげで、一流大学の財政は潤い、優秀な学生のための奨学金制度がかえって充実しているんです」

 コネで入った学生は、社会に出ても親のコネで一流の地位に就けるから、バカでも平気で卒業させるんだそうだ。だからあんなに一般常識に欠けた、中学生にも劣るようなブッシュ大統領でも名門イエール大学を卒業できたのである。日本じゃ江川でさえ慶応に入れなかったというのに……。

ア「逆にコネが無いと、ただアイビーリーグを出ているだけでは、仕事はなかなかみつかりません」

 う〜ん。これに比べれば、貧乏人でも成績が良ければキャリア官僚になれる(外交官だけが例外)日本社会のほうがまだマシかなって思ったりもする。


<社会が要求するものが日米では違う>
 
 でもそんな一流大学に、スポーツ特待生と一般の優秀な学生が一緒に入ったら、困らないんだろうか? 

ア「州立大学だとスポーツ特待生は勉強しなくてもいい授業の単位ばかりを取るので有名(体育とか)です。それでも、スポーツばかりやらされて、単位が取れず、卒業できない場合が多いのですが、プロにスカウトされれば問題無いので、卒業にはあまりこだわりません。逆に、プロ入りできないスポーツ特待生は、いい職には着けない専攻(文系は大抵そう)だったりして、よく問題になってます」

 プロになれなかったスポーツ特待生の末路は悲惨だ。かなりリスクが高い。なんだか芸能界に子供を入れるのと似ている。成功するのはほんの一握り。バクチと同じだ。じゃあなぜアメリカの親は皆、子供にスポーツをやらせたがるのだろう? そもそも名門大学はなぜ自分のところの学生のスポーツで儲けようとするのだろうか?

ア「スポーツもできますっていうのは、いかにも文武両道のようで、見栄えがいいでしょ? アイビーは常に最高の人材を集めているというのが自慢ですから、そういう人材を採りたがるんですよ」

 一方、日本の体育会出身者はプロになれなくてもつぶしがきく。体育会出身というだけでそこそこ就職ができるからだ。上下関係が超厳しい体育会(それだけに腐女子の目には「堪え忍んでいる男たちって美しいわ。自分がやれって言われたら嫌だけど」と映るわけだが……)で培われた従順さや根性は、チームワーク=集団活動が重視される社会人には貴重な特質だ。日本ではスタープレーヤーとか鼻持ちならないタイプはむしろ嫌われる。

ア「こちらでは反対で、目立つのはとてもいい事。スポーツでももちろんそうです。大学入学でもリーダシップはとても大切な特質とされています。選手としてのレベルも大切で、チームにいたというだけではダメ。レギュラーでなければ評価が下がります。補欠選手などスポーツをしていないも同じ。上手でなければいけません」

 性格最悪の流川タイプはエースプレイヤーだが、日本では主将を務めるのはまとめ役の赤木。アメリカとは対照的だ。

ア「それに人の言う事をよく聞くというだけでは全体的な評価が低いんです。会社でもそう。よく喋り、質問をたくさんして、目立つ程評価が高い。大人しく、真面目に仕事をこなすというのは、特別なところが無い、覇気が足りないとか言われ、普通以下の評価になってしまいます」

 じゃあ自分が補欠になっても三井君の復帰を喜ぶ木暮君とかはまるでダメじゃん。そして「中忍ですから……」が口癖のイルカ先生もやっぱりダメだろう。


 なるほど。日米の大学が要求するものの違いの根っ子がちょっと見えてきた気がする。要するに日米共に大学は「本当に学問がしたくて行くところ」ではなく、その国の社会が要求する能力が高い人材が行くところ、なんである。

「自分が属する集団のために真面目にコツコツ働くのが美徳とされている」日本では大学進学のコースが2つあり、

1)ガリ勉コース(与えられた課題を黙々とこなすタイプ)=>一流大学=>社畜
2)スポーツ特待生コース(上下関係に厳しくチームワークが得意)=>体育会=>社畜

と、入学する大学は別々なのに対して、

「集団のリーダーになることが美徳で、そのためには、男らしい・マッチョである=見栄えがいい=スポーツができることが重要な」アメリカでは大学進学のコースが3つあり、

1)優秀者コース(医者や弁護士、MBAなどを目指す)=>一流大学=>社会のリーダー
2)金持ちコース=>一流大学=>社会のリーダーである親の跡を継ぐ
3)スポーツマンコース=>一流大学=>人気者として集団のリーダーになる

と、どのコースも大学が同じなのだ。

 日本の一流大学が不正入学を許さないのは日本の社会が「実質的なリーダシップ」よりも「それぞれ得意な分野における勤勉さ」を求めるからではないだろうか? 

 アメリカの不思議な大学入試制度を知ってスラッシュ君はそう思った。

 
<女の子はアウト・オブ・眼中>

 さてそんなアメリカのマッチョ・スポーツ文化の中で、女の子はどう思われているんだろう? スポーツが得意なら女の子にも出世の道は開けるんだろうか? そもそもアメリカの女の子ってスポーツをすることに関心があるんだろうか?

ア「スポーツ番組を見ない女性は多いのですが、男性は好きでなくてもスポーツ番組を見ようとします。スポーツが嫌い、っていうと男らしくないと思われるからなんです」

 男の子の場合、スポーツが苦手だと、周りからバカにされるし、大学進学にも響くので肩身が狭い。だが女の子の場合はスポーツが得意だろうが不得意だろうが関係ない。スポーツ活動よりむしろチアガール活動のほうで目立ったほうが人気者になれる。

 だからTVアニメの『シンプソンズ』や『Hey! レイモンド(エブリバディー・ラブズ・レイモンド)』などのホームドラマでは、スポーツ中継にかじりついている旦那に奥さんが「家事を手伝ってくれない」などとボヤいているのだ。亭主は嘘でもスポーツに興味がある振りをしないといけないというのに……。

 ところで郊外の中流家庭の住宅では庭にプールがあるというのが普通なアメリカでは、なぜか水泳教室が少なく、子供に水泳をあまり習わせようとはしないという。訴訟大国なんで水による事故が怖いかららしい。女の子は野球やサッカーなどのチーム競技には参加させにくいため、日本では娘を水泳教室に通わせているお母さんが多いが、アメリカでは女の子に一体、何のスポーツをさせたらいいのだろう? もっともアメリカでは「健康のためにスポーツをする」わけではなく、マッチョ文化のためにスポーツをさせているのだから、女の子にスポーツをさせようなんてそもそも考えないのかもしれないけれど。

 アメリカでは、女の子やスポーツが苦手な男の子が、スポーツが得意な学生を素直に応援してやろうという気が失せる要素があまりに多すぎる。オタクと腐女子が産み出すスラムダンク同人誌のようなスポーツ系同人誌はアメリカでは当分、生まれないだろう。

 それどころか、スポーツ漫画が多い『週刊少年ジャンプ』(近頃アメリカで出版されるようになったが)の読まれ方も、今のところ日米では違っているだろうとスラッシュ君は推測する。「進」(アメフト漫画『アイシールド21』の天才的敵キャラ)が主人公じゃないっていうは、はじめすぐには納得できないかもしれない。でも内容が面白いから最後には受け入れるかもしれない。

 そしてもし、将来、日本のアニメや漫画がアメリカの子供たちにもっともっと浸透したら、「大統領選挙(注3)と大学入試はやっぱりフェアにやるべきだ!」な〜んていう考えを持つアメリカ人も増えてくるかもしれない。

 そういう日本漫画のパクリならどんどんやってほしいとスラッシュ君は思うのだが……。

(次号へ続く)


注1)孤児で、九尾の狐を体に封じ込められたため人々から忌み嫌われる上に、落ちこぼれの生徒であるナルトに、いつもラーメンをおごってくれる、忍者学校の優しい先生。声優の関俊彦はアニメ「忍たま乱太郎」でも、孤児で守銭奴のきり丸を引き取って面倒を見ている土井半助先生役を演じている。こういった「能力的には???でも面倒見の良い男」は、日本の腐女子の間でとても人気が高い。原作ではパッとしないのに三暮(ミツグレ)同人誌やカカイル(カカシ×イルカ)同人誌が多く書かれるのはそのせいである。もっともアメリカの学園ドラマにも良い先生はいっぱいいる。『ボストン・パブリック』の教師、ハリー・セナト(『V』で、主役のマイク・ドノバンの息子役を演じていた)は、正当防衛とはいえ敵対するグループを銃で撃ち殺してしまった才能ある黒人学生タイロンに「(自首してもどうせ刑務所で仕返しに殺されるだけだから)親戚を頼って逃げろ」とアドバイスする。が長距離バスの停留所でタイロンは撃ち殺されてしまう……。いやはや忍者学校よりもアメリカの公立高校のほうが凄まじいとは(泣)。(

注2)高校の漫画研究会が舞台のギャグ4コマ漫画。主人公の滝沢政宗君は、イケイケの共学公立校、杜の宮高校に入学するにあたり、長年のオタク生活と決別すべく、外見をすっかりジャニーズ系に一変させた。が、悪魔のような生徒会長兼漫研部長の新寺晃治に昔作ったコピー本をネタに脅迫され、無理矢理漫研に入れられてしまう。が、変人マニアの部長が集めた逸材、あらゆる分野に通じた超人気同人作家の八乙女泉(太っているしメガネをかけ暑苦しいがこの話ではなぜか超りりしい)、男勝りなコスプレイヤーの伊達牧子、そして美少女だが超ハードコアやおい(リーマンとオヤジ受け)同人作家の萩野月子ら優しい先輩の超マニアぶりに驚き、部長のおもちゃとして日々翻弄されながらも、滝沢は自らのアイデンティティーに目覚めていく。さらに新入部員でネガネっ子のちゃみい、こと、松島笹美、ミリタリーおたくな、軍人君こと岩沼やもとなどの新入部員、新寺の姉で人気同人作家の艶子(有力新人を続々と世に送り出している、やおいもお書きになる某超大物女性漫画家大先生になんだか似ている)、生物教師で漫研顧問のライダーファン、ジャスティスこと、名取正義も加わって、滝沢クンの受難の日々はまだまだ終わらない……。世間では嫌われるオタクがこの本では、「自分のやりたいことにひたむきですがすがしい人々」として存在が許されているため、読んでいてとにかくホッとする。どのキャラもとても鋭く描かれていて、漫画倶楽部にいたことのあるスラッシュ君は読みながら、「あ〜、いるいるこういうヤツ」と言いまくり。細かい内輪ネタもいっぱいで引用元が分かる自分を思わず褒めてやりたくなる。が、腐女子読者ならば、お互いの実力に惚れあっている新寺(晃治)と(八乙女)泉の行き過ぎた友情漫画として読むのが、もちろん正しい。(

注3)現代アメリカ社会を鋭く分析するとして定評のある田中宇氏の8月19日のレポートによれば、アメリカの電子投票マシンのシェアを2分する会社の経営陣はいずれも共和党系であり、そのプログラムには重大な欠陥があるのではないかという疑惑が常に取りざたされているがテスト機関が共和党系だったり、テスト結果がなぜか一般国民に公表されなかったりしているそうである。(

[文:スラッシュ君 030825]

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