スラッシュ君
http://www.fou.com/slash/

第31回

<女性のおしゃべり好きは世界共通だが、腐女子の常識は世間じゃ非常識?>

  スラッシュ君は最近、高田馬場のミャンマー料理店に毎週のように通っている。不思議なことにミャンマー人の男の人は、食事中あんまりおしゃべりをしない。注文の時やお勘定の時くらいしか、同郷の店員さんと話さないので、「ミャンマーの人は皆、無口なのかなあ?」と思っていたら、ミャンマーの女性客はよ〜くしゃべっていた。国籍が違えど、女の人は皆おしゃべりが好きなんだなぁ。

  インターネットと英語が多少できても、おしゃべりが好きじゃないなら、外国人とやりとりしても、多分、用件だけ話してサヨウナラになってしまい、話が弾まないだろう。もっとも、やりとりしている内容は本当にくだらないことばっかりで、「そんなことを話すために俺は英語を習ったんじゃない!」と怒鳴られるような話題ばかりなのだけれど……。


<くいものネタはとりあえず定番>

アメリカ人(以下「ア」)「最近朝ごはんのメニューがマンネリになって困ってるんだけど」
スラッシュ君(以下「ス」)「うちはご飯もの(焼き魚+味噌汁+納豆、お茶漬け、いなり寿司、雑炊)と麺もの(パスタ、クスクス、うどん、日本そば、ソーキそば)とパン食(トースト、ハンバーガー、ホットドック、サンドイッチ、ピタパン、ナン、ピザ)が大体均等だから、ネタ的には困らないよ」
ア「えええ? 朝からパスタを食べるの? しかもトマト味?」

  考えてみると今の日本人ってかなりの雑食だ。酒と乳製品の摂取量はさすがに欧米人にはかなわないが……。

ア「そういえば東洋人って乳製品に弱いって言うでしょう?」
ス「うん。男の人で牛乳飲むとおなかがゴロゴロする人多いよね。ワシの場合もチーズを大量に食べると下る。牛乳くらいなら便通が良くなる程度だけど、ダンナには朝牛乳は出せないな。だから朝、コーンフレークは食べないよ、ウチは」
ア「姉妹の中では私だけが乳製品に弱くて。フィリピンで生まれたからラクトース分解酵素が少ないのかもって言われるんだけど」
ス「えええ? ああいうのって遺伝じゃないの? アルコール分解酵素と同じで。あ、でもウチも姉貴は酒を飲んでも顔が赤くならなかったな。前に骨髄移植をしたから今の血液型はワシと同じになったんだけど、お酒に強いのは変わらないって」
 
  ヘルシーな日本食は結構人気が高い。宅配の鮨の話をするとエラく羨ましがられる。

ア「あ、沖縄料理ってのも長寿にいいんだって?」
ス「若い人の食生活がアメリカ化したのと、不景気で自殺者が多い+泡盛をたくさん飲むのでアル中になりやすいのとで、今はそんなに長寿じゃないけど、とりあえずゴーヤチャンプルはうまいよ。週一くらいで食べるな。夏は。でも足テビチとか君らアメリカ人が食べられるのかいな? 臓物料理、全般ダメじゃん(注1)。牛タンとかBSEで日本に入ってこないから今、困ってるよ〜」

  他にも朝、通勤で見かけたバンパーステッカーの話題(注2)とか、上司の悪口とか、リストラされそうだとか、再就職先が見つかったとか、スキー旅行の話とか、普段やってるスポーツの話題とか、あてども無い。
  
  いろんな話題が出るが、一番うけるのはやっぱり下ネタだ。


<猥談に国境は無く、矢のように早い>

ア「ね、この画像(スケスケスカートで下着が丸見えな日本女性がいっぱい写っている画像のURL)見てよ。日本人の女の子って、こんなファッションが流行ってるの?」
ス「その質問、もう何度も聞かれたよ。多分、赤外線写真の着色か普通のアイコラじゃないの? ま、カメラ付き携帯で盗撮な〜んていっぱいあると思うけどね。普段スカートをはいてないスラッシュ君には関係ない問題なんだけどさ。もっともAV機器は日本の産業の根幹だから、その普及の原動力である『ワイセツ使用』を手放しに怒る気にはなれないけどね(と、アイドル撮影会のカメラ小僧共の画像を見せる)」
ア「oof(うめき声)……」

ア「日本製アダルト・アニメ(Hentai Animation)でセックス・シーンのことをLemonって言うのはなぜ?」
ス「英辞郎先生によると日本の古いアダルトアニメ『クリームレモン』っていう作品が語源なんだって! 知らなかったよ〜。英辞郎先生は最近slashとかマニアな単語も差別せずに載せてくれていて心強いよ。google先生も見習ってほしいな(注3)」
ア「こっちでもイラク攻撃の前は、ブッシュに不利な情報はグーグル・ニュースではヒットしなくなったよ。で、怒った人がヤフー・デイリー・ニュースに移動した」

  ところがネットで下ネタの話題をしていると妙に、

  「腐女子の常識は世間のそれと、かなりかけ離れているらしい……」

  と感じるのはなぜなのだろう。

  外国人腐女子と日本人腐女子のカルチャーギャップよりも、自国の腐女子と自国の常識人(?)とのギャップのほうがよっぽどデカいと思える事件に、このところ立て続けに遭遇している。


<さすがブッシュのお膝元>

ア「(テキサス州ヒューストンで行われた)スーパーボウルでのジャネット・ジャクソンのポロリ事件ってそっちで話題になった(注4)?」
ス「なったなった! スポーツ新聞とか『美乳ポロリ』とか言ってエライ喜んでたよ。こっちじゃ怒ってる人は皆無だなあ。そっちでは、ゆゆしき大問題!って騒いでたけど、全く理解不能だよ」
ア「ヘンだよね〜。まあ、スポーツは子供も見てるから」
ス「こっちでも子供が『芸能人水泳大会』みたいなバラエティー番組を見てるけど、誰も乳ポロで怒って電話する人なんかいないよ。父ブッシュも観戦していたそうだから、父だけに乳は許さん! ってことかな(笑)」

  昔の日本じゃバスの中で赤ん坊に授乳しているお母さんが結構いたけれど、戦後すぐに入ってきたアメリカ人は、かなり驚いたらしい(高校の時、地理の教師に聞いた)。今は少なくなったからその辺はアメリカナイズしたっていうことかもしれないが(注5)……。

ス「そういえばテキサス州って、バイブレーターを『成人女性』限定のホームパーティーで販売しただけで逮捕されるんだって?(注6)」

  テキサスは日本の九州と似ていて(?)保守的だ。熱狂的なキリスト教信者には「女性の堕落は何よりも許せない!」のだろう。今どき魔女狩りですか? って感じだ。

ア「そうなんだよ〜。バイブ販売パーティー、私もつい2週間前に行ったばかりなんで、そのことについてはちょっと語らせてもらうよ」

  大人のおもちゃのように、店で買うのはちょっと恥ずかしいものをアメリカでは、タッパウエア・パーティー(タッパで料理を持ち寄って開く主婦のパーティーから来た)と呼ばれるホームパーティーで、販売員が説明しながら売るんだそうだ。

ス「タッパウエア! 懐かしい〜。今の日本でも『(ごちそうが余ったら)タッパで持ち帰る』なんて言葉はあるけど、若い人でタッパウエアの実物を見た人って、少ないんじゃないかな。昔は高くてさぁ。男の販売員が1軒ずつ売りに来たもんだよ」

  日本で販売目的のホームパーティーって聞くと、下着とか産直食品とかの「共同購入」を思い出して、ちょっとイヤな気分になる。社宅でおエライさんの奥さんとかに押し付けられて困っている主婦の話をよく聞くからだ。

ア「こっちにいる日系の友人も上司の奥さんにいらないものを買わされ、断れなくて困ったとか言ってたよ」
ス「タカビーな日本人妻がアジアとかでものすごく迷惑なんだって聞いたことあるけど、アメリカでもか〜い。日本系書店の海外支店の話なんだけど、本が品切れだと店員に言われた日本人中年女性が突然、『私は〇〇(外交官だったり大商社のおエライさんだったり)の妻よ! 何とかしなさいよ』とか言って怒り出すんだって。雑用とか押し付けられて書店員さんたちが困ってるって」

  やおい漫画や小説の場合、女性の汚点の描き方には容赦がなかったりするが、夫の威を借りる妻の醜さは、松岡なつきの人気やおい小説『FLESH&BLOOD』にも克明に書かれている。父親の仕事の都合でイギリスの学校に通う主人公の海斗が現実生活から逃げたかった(で、海賊時代のイギリスにタイムスリップする)のも、彼の母親がこの手の女性だったからだ。

ア「で、その展示販売パーティーって、いろんなバイブを見るだけでも楽しいから、友達に声を掛けて一緒に行ったりするんだけど、人気商品は日本製のものが多くて、ブッタの頭が付いていたり真珠が付いていたりするものがあったわよ」
ス「ブッタの頭ですか! そりゃあ畏れ多いね(笑)。でもその逮捕って、実は日本製品を買わせないための嫌がらせだったりして。貿易摩擦〜」
ア「バイヴなだけに!(笑) まあ、法律自体がバカバカしいし、こっちじゃ何度も控訴するから、最後は無罪になるかもしれないけど。バイブ所持(6本以上)だけでも女性が逮捕!っていうのは過去何度もあったし、その度に法の目をかいくぐる業者や消費者が出てくるものなんだけどさあ」

  一体、女性が自分のために買うバイブレーターのどこがワイセツなのか理解に苦しむし、それを女性に使ってもらいたくない、販売したやつは許せないなんて警察に訴えるヤツらも(取り上げる警察も)理解に苦しむ。熱心なキリスト教信者を支持基盤に持つテキサスの政治家がリップサービスで作った法律なんだろうが、こんなことで逮捕されるほうはたまったものじゃない。


<警察を呼ぶ前によく話し合おう>


  そんな折、日本でも同じような事件が起こった。2002年10月の逮捕から始まった松文館事件裁判に一審判決が出たということで、海外でも結構なニュースになったのだ(注7)。これ関してはもう各国腐女子から何度も聞かれた。いちいち答えるのが面倒なのでしまいには自分のサイトで英文で説明文を書いたほどだ。

ア「その漫画ってかなりきわどいの?」

  スラッシュ君は今まで何回かアメリカ人女性に成人漫画を買ってあげた。うたたねひろゆきファンになったことがきっかけだったようだが、ちゃたろー、THE SEIJI、亜朧麗、北里ナヲキなどの作品も買ってくれと頼まれた。どれもそれなりに面白かったが、スラッシュ君自身は「もうちょっとアヴァンギャルドなのも読んで」と早見純とか、光彩書房のアンソロジー『激しくて変』『暗黒叙情』などをプレゼントした。なので、そのアメリカ人たちは今回問題になった本が、「どんなにエロいのか!」って興味津々だったわけだ。

ス「え……そ、そんなことないけど(汗)」

  ほとんどの出版物は書店に流通する前に、必ず「取次」と呼ばれる卸売り会社(問屋)を通る。あまりにも猥褻な出版物(と明らかに売れそうも無い出版物)はまず、この段階で受け付けてもらえない。裁判でも大手取次会社の担当者が呼ばれ、「流通しても問題はないと思った」と証言している。松文館が参加させてもらえなかった「出版倫理懇話会」の人も今回の本の販売は問題無いと証言している。

フランス人(以下「フ」)「じゃあ、なんでマンガ家と出版社社長が逮捕されたわけ?」
ス「う〜ん。そのマンガを読んでいた息子の父親から苦情をもらった警察OBの政治家が警察に『捜査しろ』って言ったから、らしい」
フ「フーン。で、その息子っていくつなの?」
ス「高校生だって」
フ「えええ? だったら『成人向け漫画』を未成年者が入手するっていうのが、そもそも悪いんじゃない。親の管理不行き届きでしょ」
ス「そうなんだよ(大汗)」

  未成年者が、大人しか許されていないような行為、喫煙をしたり酒を飲んだりするなんてことはよくある。子供のデキが良ければ、または、親が過剰な期待を掛けなければ、こんなことにはならなかったのだ。家庭内でよくコミュニケーションし合えば済むことであって、警察に持ち込む問題じゃない。

  テキサスのバイブ販売事件の場合、熱狂的キリスト教信者の「淫らな女性は許せない!」という単なる「好き嫌い」で逮捕されてしまったのだが、松文館事件の場合は、一家庭内の「息子が勉強しない!」的子育て不満に対する、とばっちりで逮捕されてしまったのだ(注8)。しかも有罪判決……。

ア「でも上告って手もあるし、覆る可能性はあるんでしょ?」
ス「う〜ん、どうかなあ。今回、被告を弁護する文化人が山のように動員されたけど何の足しにもならなかったしなあ。日本には陪審員制度が無いから、国と国民が争うような裁判ではなかなか勝てないんだよねえ。水俣病や薬害エイズ裁判みたいな国民全体の健康にかかわるような事件だとマスコミの関心も高し、司法もそうそう身びいきな判決は下せないけど(それでも勝訴までは気が遠くなるほどの時間がかかる)、今回はエロ漫画本だからなあ。アメリカ占領軍もさあ、憲法だけ押し付けずに、陪審員制度まで押し付けてくれたら良かったのにな!(ヤケ)」

  洋の東西を問わず、世間には、腐オバサン(もはや女子とは言わないが)にとって「納得いかないわよねえ」っていう常識が多すぎる。

  腐オバサンの常識は世間の非常識なんだろうか? と首を傾げる今日この頃である……。

(次号へ続く)

注1)臓物はアフリカ系アメリカ人の家庭で作られる伝統的な南部料理である「ソウル・フード」にはよく使われるが、白人は「排泄物を出すところっぽい」と今でもあまり食べない。牛タンもあまり食べる人はいないので主として日本向けに輸出されていた。(

注2)車のバンパーに張るステッカー。『アメリカはまだまだ友人がイッパイいるから、後4年、ブッシュ&チェイニーでもOKさ!(Bush/Cheney '04 - Because America still has too many friends)』などのようにドライバーが世間に訴えたいことが書いてあったりして世情ウォッチングに役立つ。通勤の手段が電車である日本の都会のサラリーマンにとっての週刊誌の車内釣り広告の見出しとよく似ている。(

注3)グーグル八分事件について説明するとこのコラムもgoogleの検索に引っかからなくなるのかなあ……。ちなみに英語圏でも「google」を動詞として普通に使っている。(

注4)今年の2月1日に行われたスーパーボウルのハーフタイムショウで歌手のジャネット・ジャクソンの片方の胸が露出した(乳頭は隠されていたが)事件。この後すぐに放送が中断されたが、中継したCBSには怒涛のような抗議電話が殺到、すぐさま謝罪文を放送した。ハーフタイムショウを製作したMTVも謝罪。やらせではないか? ということで連邦通信委員会(FCC)による調査も行われた。(

注5)そのせいかアメリカでは母乳で赤ん坊を育てる率がグッと低い。アメリカ人が母乳に抵抗があるのは、母親の職場復帰が早い・多い以外にも、「母乳を与えるという行為には原始的なイメージがある」せいだという。月亭可朝の『嘆きのボイン』とか、ぶんけかなの『おっぱいがいっぱい』の歌でも分かる通り、日本は結構、おっぱいに対する憧憬が強く、抵抗が少ない。もっともアメリカでも今では知識人層を中心に母乳の良さをもっと認めようという活動が盛んだそうだ。ただし貧しいクラスの母親にはミルクが支給されていて、それはネスレなどのようなコングロマリットが作って儲けている。なので「乳を隠せ」は大企業のプロパガンダかもしれない(「糖分や脂肪分が多い食品の過剰摂取」が肥満の原因というWHOの案に政府が異議を唱えるような国だし)。(

注6)テキサス州ではいまだに「性的遊具の販売を禁止する」というワイセツ法があり、昨年11月、18歳以上の女性を集めたホームパーティでバイブレーターを販売した女性販売員(43歳、3児の母。元教員。バイブレーター会社自体はカリフォルニアにある)が逮捕された。有罪なら4000ドルの罰金刑。熱心なキリスト教信者の苦情で2名のアンダーカバーがパーティーに潜入、逮捕したという。ちなみにテキサス州ではバイブをノベルティーとして販売するのはOKだがセックスに使うものとして売ると有罪になるんだそうだ。(

参考ニュースサイト)
ヤフーのニュースサイトに載ったロイター発の記事
ABCニュース(女性販売員がテレビ出演。なかなかの美人)

注7)今年の1月13日、マンガの猥褻性が争われていた松文館事件で、東京地裁の中谷雄二郎裁判長は「性描写は露骨かつ詳細で、健全な性風俗に与えた悪影響は軽視できない」として、この成人向け漫画を販売した松文館・貴志元則社長に懲役1年・執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。一般書店で販売された漫画本の猥褻性が裁判で争われたのは初めて。(

海外の腐女子に一番引用されたBBCのニュースサイト

注8)前回、少年に対する社会的圧力の強さについて書いたが、日本では将来の日本を支える「青少年」を(東京都青少年健全育成条例とかで)猥褻物の弊害から守ろうとやっきになるくせに、リアル少女のことはどうでもいいらしい。リアル女性が、間接的であれ、買えなくなったら、権力者が「金と権力」を誇示する甲斐が無くなるからだ。こういう人(=警察の上層部に圧力をかけられる)は安価なエロ漫画なんか買わなくてもいい人なので、「勉強してエラくなって(るまで我慢して、それから)本物を買え」って言いたいのだろう。こんな父親に育成される青少年のほうがよっぽど心配だよ。(

[文:スラッシュ君 040304]

戻る