スラッシュ君
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第32回

<ムエタイやおい事情 − 男女平等・オカマ天国なのにマッチョはご法度の謎>

  スラッシュ君が普段よく歌うアニソンに『キックの鬼』というのがある。

  キックボクサー沢村忠の伝記マンガのアニメ主題歌で、沢村選手本人が歌っている。その朴訥な歌い方が妙に萌え心を刺激し、スラッシュ君心の1曲となったのであるが、10年前は『梶原一騎の世界』などの「懐かしのアニソン集CD」はあまり発売されてなくて、沢村選手の歌声を再び耳にする機会にはなかなか恵まれなかった。

  そんな折、友人の一人(注1)が「家に確かレコードがあったはず……」と言うではないか。即、訪ねに行き、膨大なブツの中から見つかった時、異常に嬉しくてDATウォークマンですぐに録音した。

  ところで、そのマンガの中では「キック・ボクシング(またはオリジナルのムエイタイ)は世界最強の格闘技だ」というようなことが書いてあった。当時のスラッシュ君は「なぜタイが世界最強?」という素朴な疑問がわいた。農業国だし仏教徒なのにな……と。が、それからしばらくそのことは忘れてしまった。フランス人やおいファンの口から再びタイの名を聞くまでは……。


<甘くて辛くて酸っぱいタイ料理のように複雑怪奇なタイ社会>

  よくメールをし合っているフランス人だが、彼女がやおい漫画ファンになったのは、実はタイのおかげだと言う。

フランス人(以下「フ」)「学校の関係で私だけはフランスに戻っていますが、私の家族はタイに住んでいるんです。タイでは以前から膨大な数の日本マンガが販売されてまして、子どもの頃から読んでいた私はすっかり日本のマンガのファンになってしまいました。やおい漫画もタイで初めて知ったんですよ」 

  イスラム教やピューリタニズムとは違い、仏教は比較的エロ文化に寛容だ。「やおい」もまた比較的受け入れられやすかったのかもしれない。

フ「タイにはマンガ出版社がたくさんあり、『LOVE・MODE』などのビブロスの単行本やGUSTコミックスなんかをよく目にしました。ですがあまりハードコアなものは無かったですね。ハードコアやおいが好きな女性読者がタイにはあまりいないのではないでしょうか?」

  そして日本のやおい漫画はタイの男の人にも結構読まれているという……。

フ「タイでは性転換者が多く、トランスベスタイトの人たちのミスコンも開かれるほどですから。こないだは元チャンピオン・ボクサーが優勝して話題になってましたよ」

  ええええ? スラッシュ君の頭にはムエタイの美人選手が日本のやおい漫画を読んでいる珍妙なイメージが浮かんだ。

フ「タイではゲイ差別がほとんどなく、ゲイ学生もいっぱいいます。ゲイであることに引け目を感じる必要がないんですよ」

  確かに日本でも話題になった「アタック・ナンバーハーフ」(注2)というコメディー映画はタイの映画だったしな。でも一体、なぜタイでゲイなんだろう?

フ「多分、彼らの多くが貧しい地方の農村出身で、タイの地方ではまだ伝統的な母系社会が残っているせいじゃないでしょうか? タイ母系社会では、母親が家長であり、母親が子どもの教育もします。母親の影響がとても強いんです。タイ社会全体もそうで、女王は王と同等に敬われます。男性が女性を下に見たりしないんです。もちろん、ドメスティックバイオレンス問題はありますよ。田舎は特に教育水準が低いですから。でもタイでは女性も男性に負けじ劣らず凶暴ですからね(注3)」

  スラッシュ君もタイのエロ文化事情についてネットをちょっと調べてみた。あからさまなセックスシーンは出版・放送できないと書いてあった。宗教的な理由からだろうか?

フ「ヌードを含めて直接的な描写はタイでは検閲を受けます(オノマトペなどで隠す)。ですが、それは宗教的理由からではないですね。タイの社会は全体的に道徳的で、子どもが猥褻ななものを見る・するのを好みませんし、大人でも裸に近い格好をする、セックスシーンを人に見せるのは、はしたないと思うようです。うちの母が泳ぐのに水着を着るのだって年配者からは眉をひそめられたそうですから」

  ところが男性向け成人漫画(いわゆる海外で言う「ヘンタイ漫画」)はタイでもたくさん出版されているという。それもしばしば無修正で。まあ法律と世間(現実社会)はどこの国でも多かれ少なかれ乖離しているものなのだが……。

フ「オカマとヘンタイはOKでもハードコアやおいはダメみたいですね。タイって女性っぽく見えない男性同士の恋愛ついてはあまり寛容でないようなんです」

  う〜ん。ヌードはダメでも成人漫画はいっぱい、オカマはOKなのにハードゲイはダメって一体どういう国なんだろう? 相手がフランス人なのでそれ以上のことは突っ込めないということもあり、とりあえずその時は「タイ=変な国」という漠然としたイメージを抱いたのであった……。


<さすがタマサート大学生、質問もマニアック>

  そんなある日、タイのやおいファンから突然質問メールが届いた。

タイ人(以下「タ」)「小笠原宇紀さんの『裏刀神記』(注4)について聞きたいことがあるのですが教えてくれますか? 私の日本語能力には限界があって、どうしても分からないのです(泣)」 

  ムムム。小笠原宇紀か(まだ3冊しか単行本が出てないのに、よりによって)……。

  日本人でも多分、全部をちゃんと理解するのは極めて困難なこの超傑作漫画にチャレンジするとはなかなかなマニアさんだ(注5)。が、流暢な英文のメールからは最初、彼女が何人なのか全く分からなかった。

タ「2巻で、涼太郎が真改を雪の中に埋め、酒を飲ませ、桜の花を刺したのは、結婚式の意味があるんでしょうか? それと最後のシーンで、馬に乗った二人が森に行ったのはなぜですか? 涼太郎は家を血で汚したくないからって言ってるんですが……」

  ……罪作りな作品だ。作者の後書きに「LVL1キャラがボスキャラにやられてもやられても立ち向かっていく萌えが創作のきっかけ」とあったが、要約してしまうとそれだけの作品(が、よくぞここまでイメージを膨らませたってくらいの大傑作だけど)に、これほど複雑な悩みを抱くとは。

  で、スラッシュ君は例によって場当たり的で身も蓋もない解説をしたのだが(注6)、先方にはかなり納得してもらえた。

  さらにこのタイ人はやおい小説が原作のやおい漫画『毎日晴天!』シリーズ(注7)についても尋ねてきた。原作小説がすべて漫画化されるのかどうか知りたいというのである。

ス「漫画のほうが売れるからヒット小説って、一部漫画化されることが多いよね。でも長いやおい小説シリーズって全巻漫画化されることはあんまり無いよ。後のほうの巻ほど売れなくなるからね」
タ「そうですか(かなり残念そうに)……でも漫画のほうが売れるのはタイでも同じなので分かります」

  なんと! メールの主はタイ人だったのだ。

ス「えええ? あなたはタイ出身者なんですか? 英語がうまくてゼンゼン分かりませんでしたよ〜」
タ「私は高校の時にアメリカに留学してましたし、今もタマサート大学(注8)で国際クラス(先生がすべてアメリカ人かカナダ人)の授業を受けていますから、英語に関しては全く問題ありません」
ス「タマサートですか? そりゃあインテリですね! 英語ができるハズだ(注9)」

  うおおお、何て飛んで火に入るヤツなんだろ〜。この機会にタイ社会やタイのやおい事情について聞きまくるべし! とスラッシュ君が思うのは当然であった。


<母系社会タイは男女平等国>

ス「そういえばタイ人って、アメリカ人やフランス人と似て、あんまり外国の文化に関心無いらしいけど(注10)、やおいファンってどこでも異文化好きだよね(もはやタメ口)。アメリカやおいファンとメールしてると同じアメリカ人か? って思う時がよくあるもん」
タ「そうそう、アメリカ人って自分の国以外には本当に関心がないよね。私が留学していた時、ホストファミリーが毎週水曜の夜と日曜の朝、教会に行こう! ってしつこかった。向こうは親切で言っているつもりなんだろうけど、あれには閉口したなぁ」
ス「うわぁ。シンプソンズ家の隣のフランダース一家みたい〜。でも留学生を預かってくれるような親切なアメリカ人ってやっぱそういう人たちなんだろうねえ。それにしてもアメリカって本当に政教分離してないよねえ……」

  と、ブッシュの悪口を言ったり、ひとしきりアメリカの悪口に花が咲いた。

ス「でもまあ、大方の日本人はアメリカのことをそれほど嫌いじゃないし、民主的な国になったのは彼らのおかげって感謝してるよ」

  スラッシュ君は当時の日本政府がなかなかアメリカ占領軍を満足させられる憲法案を提出できず、業を煮やしたマッカーサーが22歳の女性スタッフ、ベテア・シロタ・ゴードンに草案を書かせたというエピソードを紹介し、その後の婦人参政権運動の話や財閥解体、農地解放(注11)などによる経済民主化改革のことなども説明した。

タ「へ〜、それは意外。占領されて憎んでるとばっかり思ってたけど。タイはベトナム戦争が飛び火しないよう、米軍に駐留してもらって、まあ感謝してるし、外国人旅行者ではアメリカ人が一番多いから、お金も落としてくれるんで、そう嫌う人がいないのは日本と同じかな。でもアメリカ人のせいで売春が増えて、性病が蔓延して困ると嫌っているタイ人も一部いるかな」
ス「あ〜売春問題ね。日本の場合は戦前も戦後も数は変わんないかも(笑)。でも貧しさのあまり親が娘を売り飛ばすとかはとりあえずなくなったよ」



  ということで売春禁止法(「売春防止法」、「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」)の話に。いやあ昔は本当に貧しかったし大変な時代だったなあ。

ス「ところでタイって階級社会だし、女の子をタマサート大学に行かせてくれるなんて親は、さぞかし金持ちなんでしょう?」
タ「そんなことないよ。うちは親が教育者だったから。タイの親は多少裕福で教育熱心なら、娘も息子も同じように塾(注12)に行かせるし、いい大学だからといって男子学生のほうが多いってことはないよ(注13)。むしろ女子学生のほうが若干成績が高いくらい」
ス「なるほど。日本じゃ娘の場合は、親も本人もあまり教育にお金をかけてももったいないって敬遠する場合が多いからね」

  この問題についてはアメリカ人やおいファンからもよく不思議がられる。日本ではよく「せっかくいい学校に入れても女の子は結婚して子どもができてしまうとすぐ仕事をやめてしまう」と言われるが、要するにお金をかけても将来回収できる見込みが薄いというのだろう。

  これは日本女性の多くが「あくせく苦労したくない」と思っているからかもしれないし、日本の親も「娘には余計な苦労をさせたくない」と思っているからなのかもしれない。

  この辺の考え方はスラッシュ君が子どもの頃から何十年と変わってないし、こんなに日本が豊かになっても変わらないのだから、ここまで来ると最早、これもひとつの日本の文化なのかもしれないと思ったりもする。


<ゲイ教師が文化祭で女装を披露する国>

  アメリカはさておき、タイの男女平等思想はタイの母系社会から来ているのだろうか? そしてそれは性転換者を許容する社会の原動力なんだろうか?

タ「ええ。タイは強い母権社会・家母長制社会です。そのため性的倒錯者には寛容ですね。それでも私の子どもの頃はまだ、ホモセクシュアルは物議をかもしていて、性転換手術をする人は少なかったんです。今ではキャンパスにもゴロゴロいますけど」

  なんて羨ましい大学生活なんだろう〜。そしてそれは学生だけに止まらなかった。

タ「私が中学の頃、文化祭でゲイの先生たちが女装してダンスを踊ってくれました。そんなことアメリカや日本じゃ考えられないことでしょう? だけど、こっちではゲイの子どもを励ます楽しい催しだって、好意的に受け止められましたよ」

  ははっ〜(平伏)。

  フランス人からパリ市長がゲイだという話を聞いた時も驚いたが、今回はもっと驚いた。日本のBL学園漫画も顔負けのことがタイの学校では現実に起こっているのだ。

  そしてそういう文化はタイの肝っ玉かあさんたちが作り上げているのである。

タ「私のノンケの友人の母親は息子にこう言ったそうです。『お前が幸せなら、お前が好きになった人が男だろうが女だろうが、私はかまわないよ』と」

  そしてタイ社会では男性のほうがエリートになりやすいとは考えられていないという。

タ「本当に男女で出世に差があるなら、こんなに多くの男性が性転換なんてしませんって(笑)」

  なるほど。日本でも「性転換しても生涯賃金の差がない」となれば息子の性転換に反対しない母親も出てくるのかもしれない。スラッシュ君はそう思うのであった。


<実用主義の国タイでは「ハードコアゲイ」には社会的意義が無い?>

  タイがゲイに寛容なのは分かった。日本の漫画もかなりタイ語に翻訳されて出版されている。じゃあ何でわざわざこのタイ学生は日本語版やおい漫画を入手して読んでいるんだろう?

タ「だってマッチョがダメなタイでは、大人しいやおい漫画しか出版されていないんですよ」

  ここで言う大人しいやおい漫画とは、連載20回の「やおいマニアック論」でも触れたいわゆるメジャーなボーイズラブもの、学生や芸能界アイドルが活躍する、明るく楽しい話で、セックスがノーマル、かつ、過激でない作品群のことである。リーマンやヤクザの男が肉弾戦、みたいのは皆無なんだそうだ。フランス人が言っていたのは本当だった。しかし敬遠される理由はマッチョものを好む女性読者がいないのではなく、社会的にマッチョが認められないせいだとタイ人は言う。

タ「マッチョな男の人がゲイになっても美しいわけじゃない。それはすなわち、『漢力の無駄以外の何ものでもない』ってことなんですよ(笑)。実用的でないものはタイではとても嫌われるんです」

  女にもてるために男の人は男らしくなろうとする。男らしくなった結果、男にもてても何も面白くない。ムダじゃないか、というのがタイの価値観なのだそうだ。

  日本では「男にもてる男」「頼りになる兄貴」というのはかなり尊敬される存在だ。上下関係を重んじる日本では愛情と尊敬は分かちがたく、上下関係が受け攻めにも持ち込まれる。

ス「マッチョって日本では男社会の頂点に立つ存在として、むしろ尊敬されるよ。日本は『長いものに巻かれろ社会』、『でかい男には抱かれろ社会』だから(笑)。その時々の強い国に擦り寄って、その国の文明の都合の良いとこだけを拝借するのは、もう伝統芸だね」
タ「ああ! だから日本人とアメリカ人がカップルのやおい漫画では必ず日本人が受けなんですね!」

  タイは男女同権社会だからゲイになるならキッパリ女性になれ、っていうことなんだそうだ。で、スラッシュ君はやっぱりタイではヌードとかはダメなのかを聞いてみた。


<袖の下社会がエロ普及には幸いした>

  タイは学生運動以前の日本(長髪にすると「不良!」とか言われた)のような権威主義な国なので、表面的な風紀の乱れにはうるさく、ヌードは原則検閲されるという。

  なにせタイでは大学生でも男女ともに制服を着るし(注14)、外国人学生が留学願書に写真を貼ったり、ビザの更新に役所に出向く時にも「白シャツ着用、サンダルも厳禁」などと口ウルサく言われるそうなのだ。

タ「でもタイ人って根が快楽主義者なんで本当は読みたいんですよ、エロ本。そんでもって、タイって袖の下社会でもあるので、当局にワイロを渡せば何でもOKなんですね。海賊版が普通の本と一緒に本屋に並んでるし、ヘンタイ漫画もドンドン無修正で出版されています」

  なるほど。法律はあくまで法律。お金になるビジネスになるなら、裏から手を回すことが可能なのだ。

  ではやおいマーケットはまだそこまでの規模に達していないということだろうか?

タ「そうですね。やおい出版社はどれも弱小でプロフェッショナルとは言いがたい。出版情報もちゃんと告知しないので、同じやおい漫画作品が複数社から翻訳出版されるなんて無駄なことがしょっちゅうある。ワイロを渡せるほど成熟してないんですよ」

  『ベルセルク』のような普通の漫画に登場するエロ表現のほうがむしろ検閲されやすいという。エロ本出版社ほど大量なワイロをあからさまに渡せないからだ。

ス「日本は逆だね。日本じゃエロ本に『表現・思想の自由』はあんまり認めてもらえないから」

  と、例の松文館事件に話が及んだ(注15)。

  そしてマッチョがタブーのタイでは「女性が男性同士の恋愛を見て楽しむ」っていうのも、やっぱり理解されにくいという。特にその男性二人がどっちも男らしい場合はかなりマズイらしい。

タ「当局の弾圧を恐れてやおい漫画出版社はずっと自主規制を続けています(注16)。受けキャラが美しい・可愛いボーイズラブものだけが出版される。『シティーハンター(注17)』ファンである私は、もっと大人の男性が出る作品が読みたいんです。だからわざわざインターネット書店で日本語版を買っているんですよ(注18)」

  そんなタイやおいファンの今の希望は、4月27日に小説版の11巻が発売される『毎日晴天シリーズ』の漫画化を、

「明信と龍がカップルになるまで是非続けてほしい!」

  ことだ。小説版やCDドラマの宣伝ページでこの先この二人がカップルになるのを知っていてもたってもいられなくなったのだそうだ。

タ「私は龍の大ファン(注19)で、あの龍がどうしてホモフォビアの明信とカップルになるのか、と〜ても知りたいんですよ!」

  二人がカップルになるのは小説では5巻目の『花屋の二階で』から。漫画は5巻まで出ていて(ちなみにタイ版では2巻までしか出ていない)小説の多分3,4巻あたりだろうから、もうちょっと雑誌『Chara』での連載が続けば可能だ。

  とりあえず今月の『Chara』を買ったら、連載の内容を知らせるからと励ましておいた。

タ「是非是非、よろしくお願いします!!」

  二宮悦巳様、菅野彰様、徳間書店様、というわけですので、タイやおいファンのためにも、『毎日晴天!』の「明信&龍編」までの漫画化、スラッシュ君からも、是非、お願いしますデス!

(次号へ続く)


注1)さすが桜蔭出身。幼い頃から都都逸(どどいつ)を習っていた人は違う。改めてこの伝統校の底力を見た気がした。(

注2)2000年制作の世界的ヒット映画。実話(!)を元にしたスポーツ根性もの。オカマのバレーボール選手たちがオナベの監督と出会いオカマチームを結成、国体で優勝するまでを描く。続編も制作された。(

注3)タイ人は誇り高く、たとえメイドさんであっても人前で侮辱されたりすると、主人を殺害してしまうことがある。また浮気に怒った女性のいわゆる阿部定事件も多く、暴力事件は男女問わずに頻繁に起こっているそうだ。バイオレンスに対する嫌悪感が薄いのか、テレビや漫画のバイオレンス表現が問題になることはほとんどなく、交通事故などの死体写真もマスメディアには普通に取り上げられ、残酷な事故死体写真ばかりを集めた雑誌も売られているという。そのせいか西欧からの観光客が街で不用意に車を止め、地元のタイの警察官に注意される場合、かなりオカシイ風景が見られるという。警官の「ものすごい凶悪事件が起こった」かのような猛烈な怒鳴り声に、ほとんどの観光客は震え上がり、脱兎のごとき勢いで車をどかすからだ。(

注4)主人公たちが輪廻転生する全2巻の時代ロマンやおい漫画。あらすじ)墨田真改という弱っちい忍者少年は、幼馴染で武芸に優れ手柄を上げて出世した比良坂綱家(幼名:涼太郎)に、「敵を倒す秘技を教えてやる」と言いくるめられ、何度も体を奪われてしまう。だまされたと知った真改は無謀にも「打倒涼太郎」を誓う。そこにお節介な妖刀のシヴァが真改に同情、二人に永遠の命を与えてしまう。涼太郎は真改が立ち向かってくる度に、強姦した挙句、斬り殺し、地面に埋める。が、真改はそのたびに蘇り、「打倒涼太郎」と立ち向かっていくという無限ループが繰り返される……。光彩書房刊。(

注5)最近はアメリカ人から新田祐克の『イロコイ3巻』の新川が鷹秋に言ったセリフ(いきあたりばったりのストーリー同様、勢いだけのセリフなため、外国人には解釈が結構難しい。が、そういうセリフがしばしば含蓄があったりするのが恋愛ドラマの妙であったりするのだが)の意味についての質問も来た。質問が来るというのも一種人気のバロメーターなんだろうな。(

注6)「雪の季節に咲くのでこれは桜でなく梅ですね。それから雪に埋めたのはいつまでも片意地張っている真改を毎度のごとく苛めて本音を言わせたいっていうことかも。だけど涼太郎は心底真改のことが好きなので、酒を飲まして体を暖めてやりたいって思ったのと、酔って本音を吐かせたいっていう意図じゃないかな。それと最後の森に行きましょう〜っていうのはまあ、二人っきりになりたいっていうのと、そこでまた殺してやるっていうノロケですね。雪に埋められるシーンで、真改は涼太郎を殺すのに躊躇しますが、その理由を涼太郎に言い当てられ(立ち向かい続けてきたのは抱かれる言い訳がほしかったから)、『自分は今までずっと幸せだった』って真改は気づくんです。要するにあのバカップル二人には殺し合い=イチャイチャなんですよ」(

注7)ファミリーやおいものの不朽の名作、菅野彰の長編やおい小説のイラストを担当していた二宮悦巳が漫画化したもの。二宮の圧倒的画力、原作の緻密さがあいまって小説漫画化としては最大の成功例となった。あらすじ)帯刀家の長女が結婚直後に蒸発。残された帯刀四兄弟の元に、捨てられた「子連れの婿」阿蘇芳秀が転がり込む。が、秀は帯刀家の長男、大河が勤める出版社の売れっ子SF作家であると同時に、大河の高校時代の親友でもあり、かつ当時大河とはただならぬ仲であった! その後、秀の連れ子の勇太と帯刀家末っ子の真弓がカップルになり、次男の明信と勇太のバイト先で花屋の店主である龍も出来上がるなど、ファミリーものの原則に基づき、帯刀家のメンバーは次々とホモになっていく……。(

注8)チュラロンコン大学と並ぶタイの2大名門大学。(

注9)タイ人はタマサートだから英語ができると言ったら強く否定していた。文部大臣だった有馬朗人の記事(「日本人はもっと国際学術雑誌に論文を発表して、もっともっと海外の人から引用されなければいけない」という主張。このところは日本の大学も論文引用数では結構健闘している)なども読んでいる彼女は「タイの英語教育システムは日本に比べて30年遅れてると思った」と怒りまくる。が、結局、「私の英語がうまいのはネットで英語のファンフィックを読みまくっているせいなんだけどね」とも言っていたので、いくら教育システムをいじったところで、エロの力には敵わないってことなんだけど……。(

注10)早稲田大学の留学生がチュラロンコン大学の教授に「日本では何を専攻していたのか?」と尋ねられ、「哲学です」と答えたところ、「ああ、あの役に立たない学問か」と一蹴されたという。そして同じチュラロンコン大学のフランス人教授がその年ノーベル文学賞を受賞したフランス人作家について授業で語ろうとしたところ、生徒の一人が「先生、僕らはそんな話に全く興味ありません。フランス語だけ教えてください」と抗議したそうだ。タイでは観念的な学問は徹底的に嫌われる。このタイ女子学生もタマサートの学生に「外国文学を学ぶのに最も苦痛なことは何か?」というアンケートを取ったら、「その文学の背景となった文化の学習」がダントツだったという。ちなみに『アタック・ナンバーハーフ』のようなコメディーゲイ映画は人々を元気にしてくれるので実用的だが、ウォン・カーワイの『ブエノスアイレス』のような芸術的だが暗い内容のものは敬遠されがちで、タイの検閲をなかなか通らないという。(

注11)経済民主化改革といえば、今のアメリカだって「富の再分配」が必要なんじゃないか(笑)?(

注12)日本の小学生向け大手進学塾6年生の男女比は約12000:5000である。ちなみにタイの塾は科目別。英語だけの塾、算数だけの塾に分かれていて、受験生は複数通うそうだ。(

注13)日本の場合、短大まで含めると大卒の男女比はそう違いが無い。4年生男女)33.8% :47.0% 短大女性)14.7% (2002年現在)。が、東京大学の女子学生比率は18.3%に過ぎない(2003年現在)。アメリカのハーバード大学では今年、初めて女性入学者が男性のそれを上回ったが(1016人:1013人)、それに比べてかなりの差がある。それでも1982年は東大の女子学生比率は7%だっのだからこれでも増えたほうなのだが……。() 

注14)強制ではないが、タマサートにも制服はあるという。Gパンをはいて通学すると年配の親戚や先生から「せっかくタマサートに入ったのになんでそんな乞食みたいな格好するんだ」と嘆かれると言う。ちなみにチュラロンコンやタマサートの制服で援助交際するとレートがいいらしい。お嬢様校の制服が珍重されるのはどこでもあんまり変わりませんな。(

注15)日本じゃ、成人漫画など読まないで済むならこれに越したことは無いと思われているのだろう。大人しか読まないと言っても文化的意義を認めてもらえない。麻薬もギャンブルもそうだけど、のめりこみすぎて勉強や仕事を怠けるようになること自体がそもそも許せないんだろう。そして大人の娯楽を上手に楽しむには日本国民は未熟すぎると政府も国民自身も思ってるのだ。タイも似たような傾向があり、宝くじはあるが競馬やカジノは無く、隣国のカンボジアのポイペットまでわざわざ行かないと博打ができないという。(

注16)このタイ学生がアメリカに留学する前は、まだ「やおい」という言葉が一般的でなく(もちろん「ボーイズラブ」もだが)、「ゲイっぽいもの」なんていう名前で何となく内輪では話していたという。アメリカに行って初めて、「スラッシュ」や「やおい」という言葉を知り、「ああ、自分が好きだった漫画って、やおい漫画っていうジャンルだったんだ!」と分かったそうだ。ボーイズラブ以前は、長いこと、やおい文化はタイに直接入ることはできなかったのだ。(

注17)『筋肉男』も読むフランス人も大のシティーハンター好き。この漫画は各地にマッチョ腐女子を増やしたようだ。(

注18)日系書店はこのところやおい漫画販売には厳しい。が、ネット書店はタイ人が経営しているので無法地帯だし、カード決済しないでいいので学生でも利用しやすく、日本系漫画を入手するのに困難は感じないんだそうだ。(

注19)同じリュウという名の『あふれそうなプール』(石原理著)の春日竜矢も好きだそうだ。『終わりのないラブソング』の三浦竜一もきっと好みのタイプだろう。(

[文:スラッシュ君 040420]

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