スラッシュ君
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第33回

<やおい天国日本人腐女子が外国人腐女子に負ける時>

  第8回で「この世の春を謳歌する日本女性」などと偉そうに書いたスラッシュ君だが、「日本人やおいファンって本当におトクなのか?」と自問したくなることが近ごろよくある。

  やおい漫画が簡単に買えないインドネシアの友人が、「時々インドネシア人でいることが嫌になるよ」とメールでボヤいてきたので、スラッシュ君も「ワシも日本人でいることが嫌になることがあるよ」と言い返してやったらエラく驚かれた。


<どうしてアマゾンで買ったほうが安いの?>

スラッシュ君(以下「ス」)「日本はCDやDVDがメチャ高いんだもん。最近じゃ安い海外版を買っちゃいけないっていう法律まで出来たんだよ」

インドネシア人(以下「イ」)「ああ、そうらしいですね。その点だけは日本人でなくて良かったと思います(笑)」

  リージョンフリーDVDドライブを持っているスラッシュ君の友人たちは皆、やおいアニメDVDは、

  「ちょっと待って米アマゾンで買う」

  と言う。

友人1「米アマゾンから『絆』のアニメを買ったら、2本入って30ドルくらいでした。英語字幕付き(注1)。日本語オリジナル音声はそのまま残ってるからノープロブレムです」

友人2「北米版アニメ・ミラージュを購入しました。英語と日本語の両方が入っていて、なおかつ、送料を含めても日本の半額なんですよ。英語をしゃべる直江が見れるし(注2)、メリケンな発音の『アリ・ナリ・トナリ…』は笑えますよ」


  日本のヒットアニメは少し待てば安いアメリカ版が出る。高い日本製DVDなどバカバカしくてもう買う気にもなれないらしい。

 
<早さでも負けている?>

  スラッシュ君の家は狭く、ビデオやDVDを気軽に買えないので、借りられるなら2カ国版見てみたいのだが、まあ、スカパーで一度見ているし、それほど身につまされる問題じゃなかった。が、この間ネット上で某アニメ・コンベンション関係者の発言を読んだ時には、さすがに悔しくて地団駄を踏んだ。

アメリカ人(以下「ア」)「皆さん〜コンベンション直前にミラージュのOVA(注3)を入手できました〜!(以下感想)」

  向こうのアニメコンベンションでは日本の新作アニメを違法上映することが多い。さすがの京都府警も海の向こうまで逮捕には来ないないし、たかだかホテルの1,2棟で開かれるコンベンションで上映されたところで、その後リリースされる正式な英語版の売り上げを損ねるほどのものではないから、だろう。

  今回の新作ミラージュはOVAリリースなので、スラッシュ君には見られない。近くのTSUTAYAが置いてくれない限り(or スカパーとかで通常放送されない限り)、今後も永久に見られないだろう(泣)。

  自分が見られないミラージュのOVAをアメリカ人が見ているというのはちょっぴり悔しかったのだが、次の一言はもっと衝撃的だった。

ア「(ミラージュOVAの出来は)まあ最高傑作アニメってほどじゃありませんが、並みのテレビシリーズよりは良かったです。ちなみに私のベストアニメは『ラスト・エグザイル』と『サムライ7』(注4)ですけど」

  な、何とこのアメリカ人は『サムライ7』まで見ているという! まだアニマックスのPPV放送しかされていないというのに(スラッシュ君ちは古い集合住宅なんで電話線事情が悪くPPV放送が簡単に見られません。ううう)……。

  ま、そんなにくやしければこれから出るDVDを買えよ、って話かもしれませんが、地上波やWOWOW、スカパーの通常放送など、見なくちゃいけない帯番組アニメビデオが山ほどたまっているので、買ってまでは見たくないのだ。

  そしてスラッシュ君はインドネシア人にも負けた。

イ「ああ、『サムライ7』ね。VCDを買いましたよ(注5)。VCDはDVDより画質が落ちますが、私の大大大〜好きな声優、朴路美さんが出てるから買ったので画質が多少悪くても問題ナッシングです。ハガレンのエドと違ってこっちはちょっとpoliteな役なんです」

  だと。

  ああ。画像が多少悪くてもいい(スラッシュ君はアニメはいつも3倍モード録画で見ている)。日本のテレビでも早く見たかったよ。


<熱心な海外アニメファンに教えられ……>

  悔しいけれど日本のアニメが海外でドシドシ見られるようになったことって、実はとってもいいことだ。海外の熱心なアニメファンのほうがスラッシュ君なんかよりよっぽど情報に敏感で、最近ではいろいろと教えられることも多くなったからだ。

『アイシールド21』や『鋼の錬金術師』くらいまでは日本人の友人に薦められて、スラッシュ君も単行本やアニメチェックをするようになっていたのに(注7)、『ヒカルの碁』の後に小畑健が週刊ジャンプで連載している『DEATH NOTE』(大場つぐみ原作)の場合は、フランス人とインドネシア人からの連日にわたるものスゴイ推薦で単行本を読むことになった。

フランス人(以下「フ」)「現在、フランスの出版社4社が翻訳権を奪い合うほどの人気です。ジャンプらしくない、頭が良く、冷血な主人公がとても斬新です」

  インドネシア人はパソコンで書いた月(ライト)とL(エル)のラブラブカラー画像まで送り付けてきた。さすがアジア人は絵が上手い。「アジア特有のユルイ著作権文化」を共有する者として強くうなずく一方で、「還流問題」とかウルサイことばかり言っていると、今に日本人もアメリカ人のように絵が描けなくなるんじゃないか? とちょっと心配になってきた。

イ「インドネシアは日本発売より1ヶ月遅れてしまうので(注6)『DEATH NOTE3巻』はシンガポールに行く用事のある友人に頼んで買ってきてもらいます」

  ジャンプコミックスに関してはシンガポールと香港だけは日本の発売日とそう変わらずに入手できるそうだが、いやあ熱心ですなぁ。
 

<買い付け作品決定を左右するほどの力を持つ新作アニメ回覧会>

  かくして日本の薄いアニメファンより海外の濃いアニメファンのほうが先に新作を見ることがあるわけだが、海賊版VCDが横行するインドネシアとそうでないアメリカとでは、アニメの入手方法はちょっと異なる。

  先日アメリカ人人妻と「どうしたら家族とやおい作品を楽しめるか?」について話していて分かったのだが、このアメリカ人、『今日からマ王!』(注8)をもう既に見ていると言うのである! しかも旦那と。

ア「こっちには日本のTVアニメ番組の録画ビデオをコピーして無料回覧するクラブがあって、私もそれに入会しています。英語字幕は付いてないけど、ファン有志が英語に翻訳してネットにアップしているファンサブ("fansubbing")があるから、それをダウンロードして、あらかじめ読んでおくわけ。で、ウチの旦那ったら私に『(主人公の)有利(ユーリ)がゲイじゃなくって残念だね』って」

『ロード・オブ・ザ・リング』を借りた時も「レゴラスとアラゴルンが君ら的にはカップルなんでしょ?」って聞いてきたりするお茶目な旦那だ。今年のバルチモア・オタコンのゲスト、ラルク・アン・シエルのコンサートにも付き合ってくれたそうでなかなかの愛妻家である。

ス「うちの旦那も『今日からマ王!』を一緒に見てくれるけど、『(脇キャラが)今どき滝のような涙を流すか?』って呆れてるよ」
ア「それはうちも同じ。画面に向かってツッコミを入れてる。付き合いで見てくれてるだけ」
ス「ああ、やっぱり(笑)。腐女子を妻に持つと、どこの旦那も苦労するよね〜」

  アメリカ人曰く、この作品はアメリカ人ファンが多いから来年には正式リリースされるだろうとのこと。そうなるとこういった回覧会のような違法コピーのやりとりは出来なくなるそうだ。

ア「気に入ったので自分でも買いたいです。早くリリースされないかな」

  そ、そうですか……(汗)。そういえばアメリカの監獄ドラマ『OZ』が日本で見られなかった頃、スラッシュ君たちも回覧会を作って英語版ビデオを回していたな。スカパーのスーパーチャンネルで日本語放送が始まるとそっちも見たから、回覧会は必ずしも売り上げを損ねるものではないかもしれぬ(日本人声優さんの声も聞きたいし)。

  アメリカの新作アニメ回覧クラブは今や無数に存在し、アニメ新番組情報が伝わるのはかなり早くなってきている。そして北米のディストリビューターも、そういったファンサブの傾向をモニターし、次にどのアニメ番組を買い付けようか決定していると言う。

『OZ』が日本に輸入されたのも、スラッシュ君たちの回覧会の感想をネットを見た業界人が買い付け会社に勧めてくれたからなのだが、アメリカのように日本でもクラブ数が多くなって、買い付け会社がその動向を気にするようになれば、『騎馬警官3』とかが早く見られるようになるのかもしれない。


<何とかならんか文化放送ライオンズナイターの延長>

  インドネシア人に教えられたことはもう一つある。ガンガン付録のドラマCDについて話をしていた時、インドネシア人がふと、

イ「スラッシュ君は毎日曜日23:30〜24時に放送されているラジオ大阪の『OH! NARUTOニッポン』と『ハガレン放送局』を聞いてますか? 面白いですよね」

  と尋ねてきた。なんとインドネシアからエアチェックしていると言うのである。スラッシュ君は社会人になった途端(注9)、ラジオからすっかり足を洗ってしまったが、熱心な海外アニメファンはラジオ番組ですら聞き逃さないのである。

  早速、東京ではいつ放送しているのか調べてみた。月曜夜9時半、文化放送で放送されていた。NARUTOもハガレンも娘が大ファンなので試しに聞いてみたらハマるハマる。電化製品好きのスラッシュ君はすかさずトークマスター(注10)を購入。毎週予約録音することにした。

  ところが文化放送の月曜日って、その前にライオンズナイター(マンデーパリーグ)があり、試合が延長になるとその時間のアニラジ番組は休止してしまうのだ。今年の8月は何と4週も続けて休止になり、娘はメチャメチャ怒っていた。ラジオ大阪のほうが休止になることはめったになく、文化放送は1日遅れのプログラムを放送しているので、連続ドラマコーナーなどわけが分からなくなってしまう。

  今年の8月なんかアテネ・オリンピック(注11)に、高校野球に、イングランド・プレミアリーグが始まって、もうこれ以上いらないだろう? って感じなのに。ロスタイム分しか延長しないサッカーを少しは見習ってほしい、って強く思ったよ。


<結局儲けるのはアメリカなのに大人しすぎる日本の消費者>

  娘があんまりガッカリしているので、アニメイトに行ってNARUTOとハガレンのドラマCDを買ってやったのだが、どちらもコピーコントロールCD(CCCD)だった。これって悪名高きイスラエルの軍事技術を応用したっていうCDじゃん! こんなもの買いたくなかったのに〜(泣)。でもって●●のCDドライブではかからない、××では動かない可能性もあります、うんぬんと細か〜い字で書かかれた免責事項でいっぱい。一体、どんなドライブならかかるんじゃい!? って言いたいほどだ。で、結局CDがかからなくても返金には応じないとある。

  家人に聞いたら「日本とイギリスの最近のCDは皆CCCDだよ。訴訟社会で消費者が強いアメリカでは再生に問題があるCCCDはあまり多くないし、あっても別の方式。だからアメリカ盤があればそれを買うし、ユーザーレビューをよく読んでCCCDでないことを確認できればイギリス盤も買う」と言う。

  むむむ。じゃあ、今回の著作権法改正案の可決で日本の消費者は、

1)日本のアニメ=>少し待って安いアメリカの正規版を買う
2)洋楽CD=>CCCDでないアメリカ盤を買う

  ことになったってことなのか? 一番得するのはアメリカの業界じゃないか! 日本の業界関係者もバカだけど、日本の消費者はもっと怒るべきだ(注12)。わざわざ高い送料を払っても日本盤のほうが高いのは絶対におかしいし、音質も悪くなるし、再生できない可能性のあるCDに甘んじてしまうのも屈辱的じゃないか。

  ラジオ大阪を教えてもらった時、インドネシア人に「じゃあ過去放送分のエアチェックを送ってあげようか?」って言われて、「過去のドラマを集めたドラマCDを買うからいい」と一度は断ったスラッシュ君だったけど、今じゃ本気で

「エアチェックを送ってくれ〜!」

と頼みたくなったよ。

(次号へ続く)

注1:吹き替えはコストがかかるので、たくさんは売れないやおいものアニメはアメリカでも字幕版が多い。(

注2:英語字幕も付いているが吹き替えの英語と若干違いがあると言う。(

注3:2004年7月〜9月にOVAリリースされた『炎の蜃気楼〜みなぎわの反逆者』のこと。スカパーのキッズステーションで2002年1月〜4月に放映していたテレビ版『炎の蜃気楼(ミラージュ)』の続きである。(

注4:黒澤明の『七人の侍』をリメイクしたGONZO製作のフルデジタルアニメ。2004年6月のスカパーのアニマックスでPPV放送が開始された。DVD第1弾は2004年は9月29日発売予定。(

注5:ちなみに買ったと聞いたのは今年の8月。おいおい(汗)。インドネシアのアニメの字幕はなぜかほとんど英語だそうだ(普通のインドネシア人は英語がペラペラなので困らない)。海賊版といえど英語版を作ったほうがマーケットが広く儲かるからだろう。英語ができない日本人には海賊版も作れないのか……。(

注6:ドラマCD付録付きコミックガンガン4・5月号も1ヶ月ほど入手が遅かったな。が、このインドネシア人は友人が買ったDVDや連載漫画誌を借りたりしているので、ハガレンのヒューズが死ぬことや、デスノートにミサとレム(女の死神)が出て来るなど、知りたくも無いことを次々と教えてくれる……。(

注7: 最近日本人に教えられた少年漫画は、ひぐちアサの『おおきく振りかぶって』くらい。海外ではいまいちマイナーな『アフタヌーン』連載なのと、講談社系漫画は絵がクールじゃないので、海外ではまだマイナーなのだ。(

注8:この春からNHKBSで放送開始されたやおい系アニメ。喬林知が書いた原作小説の『今日からマのつく自由業!』 が角川ティーンズルビー文庫(現在は『角川ビーンズ文庫』再販)だったので、ネットで予告を見たとき、「おお、NHKでもついにやおいアニメが見られるようになったのか!」と昔を知るヤオイおばさんたちは感激でむせび泣いた。なのに若いやおいファンは「演出がミエミエで、ヤオイファンってこういうの好きでしょ? っていう『みくびられた感』がしてなんだかねぇ」って文句を言う。「見られるだけでありがたいと思いなさいッ」ってオバサンは言いたいよ。(

注9:受験勉強が終わっても『アルフィーのオールナイトニッポン』だけは聴いていた。坂崎幸之助のギャグとマニアックな選曲が好きだったな。(

注10:タイマー録画できるラジオ。三省堂とサン電子が共同開発。なので本来は語学学習用。超小型が売りなのにイロイロつけると場所を取り本末転倒なのだが、その後出た『トークマスター専用スピーカー付充電スタンド』も買ってしまった。そういえばマッキントッシュのDUOが出た時もDUOドックを買ってしまったなあ。さすがにスクープマンのNTステーションはやめたけど。(

注11:ちなみにインドネシアは参加国で唯一、アテネ五輪がTV放送されなかった(除くケーブル放送)。放送権料が高くなりすぎ&大統領選報道で忙しかったので「広告主を集められない」と放送局が買い付けを断念したのだそうだ。確かにスポーツ放送権料は年々高くなる一方で、イギリスでも試合によっては地上波でサッカーが見られなくなってきている。ケーブルテレビを契約してないので好きなチームの試合が見られなくなったと嘆く老人をイギリス映画なんかでよく見る。ヨーローパの有名サッカーチームが最近、アジアに顔見世興行に来て、ファンを増やしているが、これはマードックなど巨大欧米資本がアジアのスポーツ放送を独占するための布石だ。ファンが増えたところでケーブルテレビでしか試合を見られなくする。まあ、スポーツ番組くらい見られなくなったところで大して困らないが、これが「水」だったらどうだろう? 最近は水道事業まで民営化して、ベクテルなどの巨大多国籍企業に任せてしまう動きがあってゾッとしてしまう。任せた途端に水道料金を値上げしたり、水質が低下したりして、苦しむのは地元の貧困層だ。ゆくゆくは、農業用水の制限=>世界の農作物取高の操作=>価格をコントロールしようという魂胆だ。何でもかんでも民営化させないよう公務員と某局職員には高い倫理観を持ち続けてほしいものである。(

注12:消費者は神様なんだからもっとガッチリ団結して不買運動をやって消費者に不利な法律にはノーと言わなくてはいけなかったのだ。日本で還流防止の著作権改悪法(「著作権法の一部を改正する法律案」)が審議されている時も、消費者は音楽評論家といっしょに運動などするべきではなかった。きっちり嫌なものは嫌だと徹底的な不買運動を起こすべきだった。所詮音楽評論家は日頃お世話になっているレコードメーカーに楯突くことができないのだから……。(

[文:スラッシュ君 040916]

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