スラッシュ君
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第34回

<中高一貫校で気を付けたい腐女子の身の処し方>

  前回から早1年も経ってしまった。その間、スラッシュ君が何をしていたのか? というと、愚娘の中学受験にハマってしまっていたのである。


<中学受験ゲーム論>


  このコラムを読む人にとっては「子育て」どころか「中学受験」など、全く縁の無い世界かもしれないが、ゲームを嗜む人は多いのではないだろうか。そして子どもの中学受験を体験してみて分かったのは、

「中学受験はその構造自体がゲームである」

  ということだった。


<お役所嫌いと木暮君が受験の動機>

  スラッシュ君が子どもに受験させたかった理由は2つある。1つは世代的な共通感覚から来るものだ。これは今、中年を迎えたオタク世代が共通して持つ感覚だと思うが「公立や文部科学省はあてにならない」という気分である。

  それは何も近頃流行の「ゆとり教育批判」に始まったことではない。子どもの頃に散々体験した「公害・薬害問題(サリドマイド、水俣病、イタイイタイ病、スモン病裁判での業界と国の癒着)」や、民間企業に就職して苦労している時にふざけるな! と思い知らされたノーパンしゃぶしゃぶ事件や天下りをはじめとする「官僚のモラルの低下」、道路公団や社会保険庁などの公的機関の腐敗、自分が卒業した都立高校で近頃行われている「日の丸・君が代強制、従わなかった教師のボーナスカット」などによって「官、公、お上」嫌いが自然と刷り込まれているためだ。

  とはいえ長引く不景気のために月謝が安い「公立、国立」の魅力は捨てがたい。今年は初の「都立中高一貫校」である「都立白鴎高等学校附属中学校」(注1)も開校した。

  ところが白鴎の入試、蓋を開けたら恐ろしいものだった。殺到した志願者をふるい落とすために事前に足切りを行ったのだ(小学校からの調査書による書類審査を実施し受検者を定めた。そのため2054人いた応募者は684人に絞られ、倍率は14倍から4.75倍に絞られた)。受けるチャンスすらもらえない。そしてその足切り基準は例によって非公開。そのため、「自分の子どもより勉強ができないのに教師の受けがイイ子どもが受験できた」という親の不満がネットに溢れたのは言うまでもない。

  調査書と聞いてスラッシュ君は公立中学の内申書を思い出した。思うに公立学校の堕落が始まったのはこの「内申書」の制度のせいではなかっただろうか。内申書を人質に取っているので教師の授業がヒドくても大部分の生徒は逆らうことができなかった。そのせいで教師も甘え、どんどん授業の質は低下していった。都立高校は1回しか入試がないので本番の弱い生徒にはカワイソウという人もいるだろうが、心臓に毛が生えているとよく言われていたスラッシュ君は「一か八か」が好きで「どうして入試一発じゃダメなの?」と当時から強く不満に思っていたものだ。

  中学入試で分かったのだが、学校側がどんな人材が欲しいかは、その学校の入試問題を2,3年分見ればおおかたの見当がつく。欲しい生徒の性質を入試問題にしっかり反映させていれば、内申書による評価なんてものは必要なくなる。無能力の教師が生徒を従わせ授業を何事もなく進行するための伝家の宝刀にすぎない。白鴎中学もとんでもない数の受験者が殺到したら体育館でも何でも使って受けさせれば良かったのだ。私立中学はどこもそうやって全員に受けさせている。志願者を減らして効率を良くするなんて、働きたくない公務員の言い訳じゃないの? とスラッシュ君は憤っていた。

  そして某国立大学付属中学も「さすがは公務員!」とスラッシュ君を圧倒させてくれた。2回開かれた学校説明会のうち、土日に開かれたほうの説明会が台風で中止になったのだが、追加説明会は「学校行事が忙しいため行わない」ことになったのである。学校のホームページはあまり更新されておらず、台風当日の予定も当然分からなかったのでスラッシュ君は行かなかったのだが、行ってみて中止と説明を受けた保護者の人もいたそうで、本当に気の毒だった。そして最近は抽選倍率にも達しないのにわざわざ一次審査を設け、その度に足を運び、書類を入手・提出しなくてならず、担任の先生にわずか1週間で独自フォーマットの報告書を書いてもらわねばならない。内容は単に通信簿のコピーの域を出ていないのにだ。さらに合格辞退するのにも「印鑑を持って」わざわざ行かなくてはならない。合格発表の当日、受かった男の子に職員の人が「君は来てくれるかなあ?」って笑顔で尋ねていたのを見て、「職員の人の中には熱心な人もいるのだな」とちょっぴり見直したが、当の男の子は即答できず困った顔で笑っていた。まあ、そうだろう。


<子犬の横にはあなたがいてほしい♪の呪縛>


  もう1つの理由は「思春期のうちは異性の目を気にせず自分の好きな事を好きなようにやらせたい」ためだったのだが、それがなぜスラムダンクの木暮君なのかというと、男も女も、自分の恋人にしたい究極のタイプは

「思いやりのある人=周囲に気を遣う人」

  だからだ。

  一見、三井君や主人公の花道、ライバルの流川のほうが女の子にモテると思われがちだが、所詮それは「あこがれの対象」にすぎず、現実の世界で女の子が安心してつきあえるのは、「将来はいかにも公務員」な木暮君のほうなのである。

  そういう女の子はもし木暮君が血迷って「バスケで海外プロリーグに行く」なんていったら体を使ってでも止めるだろう(笑)。「そして私はレースを編むのよ〜」と歌いながら「部屋とYシャツと私」のような「等身大の幸せ」が大部分の女性が求めるものなのである。そしてそれは男の子にとっても変わらない。

  なので何かの才能に突出した女の子は敬遠される。目聡い子の中にはわざと自分の能力を隠してみせたりする者がいるが、怖いのは謙遜ばかりしているうちに、本当に自分を失ってしまう場合があることだ。思春期のうちに異性からの強いプレッシャーにさらされると、自我が十分育たないし、個性的にもなれない恐れがあるのだ。思春期、もてなかった恨みをバネにして将来、ITで大成功するオタク君もいるかもしれないが、できることなら「我が道を行く青春」を謳歌させてやりたい。女子校出身の変な女性、でも愛すべき女性をたくさん知っているスラッシュ君はそう考えたのである。

  で、私立の女子校を調べてみたのだが、意外なことに「良妻賢母教育でない&無宗教の女子校」というのは実は、数えるほどしかない。もともと中学受験の塾に通う小学生の人数も男の子のほうが圧倒的に多いし、模擬試験の時の上位陣も男子がほとんどだ。女子校の入試は問題も簡単で、特に算数の難易度は男子御三家に比べるとかなり手ぬるい。真面目にコツコツやれば何とか出来てしまう問題ばかりだ。要するに私立女子校はお嬢様学校が大部分で、成績がいい女の子が集まる学校なんてほとんど無いのが実情だったのだ。それが後々大変なことになろうとはスラッシュ君もその時点では全く気づいてなかった。

  なのでスラッシュ君が娘を通して世の中学受験を語るのはかなりおこがましいことなのだが、「世の中にはこういう世界もあるのか」的なことを多少でも伝えられたら嬉しいと思い、当時のことを書いてみることにした。


<算数上位者は皆ゲーム脳を持っている>

  インターネットには受験のサイトもいろいろある。そしてどの分野にも一人はトリックスターがいるように中学受験ネット界にもニフティーで言うところの「トリさん」的な人がいる。中でも人気なのが「Q(ちゃん)」という家庭教師だ。もとは大手塾の講師だったそうだが今は家庭教師となって、あちこちの掲示板で大手塾の実名まじりの批判を「〜〜ますな」という独特の口調でやっている。自分の自慢話(生徒をどれだけ有名校に合格させたとか)と有名講師のスキャンダルのほとんどはデマかもしれないが、時々鋭い指摘もするのでスラッシュ君は結構好きだった。
 
  彼が指摘した中で、「昔は掲示板だったが今はブログのほうがよっぽど事実を知るのには良い」と言うものがあり、専門の受験業者がやっているインターエデュや学研の「中学入試掲示板」や2ちゃんねるお受験掲示板のような世論操作が容易な掲示板でいくら塾関係者が真実を隠しても、楽天のブログ「中学受験のお母さん集まれ」とかで簡単にバレしまうという指摘があって、スラッシュ君は「なるほどな」と思った。

  この楽天のブログは本当に面白かった。受験をめぐる嫁姑の葛藤、協力しない夫への不満(夕食はカップラーメンの刑に処せられた旦那もいた)、成績の良い子供を持つ親への嫉妬(注2)が渦巻いていて、そこらの女性週刊誌よりよっぽどリアルだった。中でも結構多かったのが自分の子どもの成績が悪いのは「塾(の教師)のせいだ」という醜い責任転嫁。塾内の成績に差が付くとしたらそれは家庭学習の差では? と普通思うだろうに、5,6年生の問題となると親でも解けなかったりするので、とにかく「悪いのは人のせい、世の中のせい」にしたいらしい(笑)。それではたまらんと男の塾教師たちもここでブログを書いて「正しい親の道」を説いていたりする(注3)。そんなブログの中でよくゲームの批判がされていたりする。


<嫌いだから「結論」が先にある>

  そういう人のブログを読んでみるとゲームについてあまり好きじゃないとか得意じゃないというケースが多い。そういう人はゲームの弊害を見つけるととにかく「ゲームは悪」と決めつける。そして親や生徒にやめさせようと説く。

  が、もしこの人がゲームが好きだったら、もう少し結論は違っていたのではないかとスラッシュ君は疑う。というのは自分の娘の周りの理系教師が皆、ゲーム好き、もしくはゲームが得意だったからだ。

  塾の先生は生徒たちに楽しく塾に通い続けてもらおうと、授業中、ジョークを言ったり、教材にアニメを取り入れたりしているが、娘の塾の場合も理科の先生がアニメとゲームの話をよくしてくれた。スラッシュ君の娘はすっかりこの教師に心酔してしまい、志望校も早くから勧められる通りに決めてしまった。まんまと塾の戦略に乗せられたのだが、たまたまそれが「良妻賢母教育でなく無宗教な女子校」だったために、スラッシュ君に特に反対する理由はなかった。男の子っぽい女の子には算数が難しい学校なので向いているとのことだった。


<算数を制する者が受験を制する不思議な構造>

  そして中学受験というのは「算数」が最も大きなウエイトを占めているのだということが段々分かってきた。大人にとってはそれほど必要な学問とは思えない算数だが、多分、国語に比べ客観的に短時間で採点しやすいのと、思考力を見るには、暗記要素の強い理科や社会よりは適しているからだろう。そのため「中学への算数」(「大学への数学」の小学生用)という算数だけの受験雑誌はあるのに、「中学への国語」や「中学への理科」は無い。娘もこの雑誌の巻末に付いている添削問題(通称、学コン)を出すようになったのだが、問題の感想はろくに書かず、いつもゲームとマンガの話題ばかりを振り、採点される学コンマンの先生もそれによく応えてくれたので、毎回楽しく続いたようだった。

  思うに算数や理科を解くというのはゲームに似ている。だから理系教師というのはたとえテレビゲームが好きでなくても、やらせてみれば皆得意なのではないだろうか。

  娘の学校の友達で某国立男子校に合格したある男の子は囲碁が得意で、クラブの顧問の先生をよく負かせていた。娘も「中学への算数」が届くとまずパズルコーナーを解く(注4)。小野田博一の「史上最強の論理パズル」にあるようなトンチ問題がとにかく好き。数学オリンピックに出て輝かしい成績を残せるほどの非凡な才能は無いが、勝負強く、定石が通じない初見の問題ほど燃え、基礎問題を繰り返してやるのが大嫌いだったので、事前準備のしようがない「公開テスト」ほど良くできた。

  それでも6年生の秋からは過去問を始めなければならず、学校が早く終わった日や塾の無い日もそれにつぶれてしまい、友達とゲームをする暇もなかなか取れなくなった。

  ゲームというのは一人でもできるのだが、友達とやる楽しさというものはもう、比べようがないくらい格別のものらしい。友達とゲームをやっている声からして全然違う。側にいればそのくらいすぐに分かる。12歳の子にとってはかなり辛い時期であった。

  じゃあスラッシュ君も付き合ってやってマンガ断ちくらいしてやるべきだっただろうが、それは絶対に無理(笑)なので、「公開テストでいい成績ならゲームを1本買ってやる」と提案したところ、急激に成績が上昇した。学コンも1問できたらマンガ1冊読んでよし! と決めると問題を解くスピードが激しく速まった。短時間で解けると見直し時間も長く取れるようになるので、ケアレスミス大臣な娘にはとても良かった。

  というわけでこの時期はいろんなバクチ要素を取り入れたが、おかげで親子共々、かなりのストレスが発散できた。ネットを見ていると「物で釣って勉強させるなんて」という真面目な親もいたが、どう過ごしてもせいぜい5ヶ月なら「楽しいほうがいいに決まっている」と考え、我が家ではゲームを最大限活用した。

  だが「物で釣って勉強させる」システム、実際のところ、塾でもかなり取り入れられている。成績がポイントでたまり景品と引き換えるなんてことはどこでもやっているが、最も強力な報酬は「成績上位者には塾の月謝が割り引きになるシステム」であろう。その制度のおかげで、一度割り引き制度を受けた親が、引き続き割り引きにあずかれるよう、子どもに是が非でもいい成績を取らせ続けよう必死になるので、塾としても単なる成績の良い生徒を集める以上の効果が期待できる。他にも毎回の試験の成績を個人名入りで発表し(近頃の個人情報保護ブームで個人名の掲載が減り、かなりやる気が低下してしまうケースが増えたのは残念である)、上位者には景品や賞状を与えたり、席順やクラス分けに反映させたりする「奨励制度」も、一種の「ゲーム」ではないか? とスラッシュ君は思う。ブログのメインコンテンツである、塾の成績に一喜一憂する親も子のフィーバー振りも何かギャンブルのようだった。


<ゲームは受験にイイとは決して言えない塾関係者>

  でも塾の教師は公の場(父兄の前)では「ゲームが受験に役立ちます」なんて絶対に言わない。ゲーム的能力は問題を解く能力を養うが、受験のためには最低限、必要な知識は地道に暗記しておかなければならないからだ(注5)。「ゲームが出来ればそれだけで受験はOK」と勘違いされ、試験に落ちたら、先ほどの他人への責任転嫁が好きな親たちに袋叩きにあう。スラッシュ君は塾関係者ではない&この場所が受験サイトでないので「受験=ゲーム」と堂々と言えるが、現場の先生は生徒にコッソリ漏らすしかない(注6)。「ゲーム脳の恐怖」という本は売れても「受験に役立つゲーム脳」というタイトルの本では「子供がゲームばかりして勉強しないとこぼしている」多くの親から総スカンを食らうだけだろう。


<子どもには2度見て欲しい鋼の錬金術師「シャンバラを征く者」>

  そんなこんなで受験も順調に終わり、夏休みは受験前から前売り券を買っておいたアニメ映画「鋼の錬金術師〜シャンバラを征く者」を一家で見に行った。

  ハガレンは原作のマンガが腐女子の間で評判が高かったため、アニメ化された時は勇んでみたのだが、評判以上の出来でスラッシュ君一家もかなりハマった。音楽もいいし(注7)、原作が未完だったためアニメ用に書かれたオリジナルストーリーがかなりしっかりできていて、キャラ優先で文芸はお粗末という日本製アニメが多いなか、出色の出来であった。

  とりわけ人の死や戦争についてリアルに扱っていて、地上波(TBS)の土曜日、6時台の作品としてはかなり画期的だったと思う。が、放送が始まった2003年はイラク侵攻の年。世界の現実を見れば「平和で楽しいことばかりのアニメ」ばかりを見せていては、逆に「教育上良くない」だろう(笑)。

  入試が終わった多くの家族同様、スラッシュ君の一家もハワイに行き、向こうのカトゥーンネットワークでハガレンを見たが、『ワンピース』や『ガンダムシード』、『金色のガシュベル』、『遊戯王』、『ポケモン』が子ども時間に放送されているのに対して、ハガレンは『カーボーイビバップ』、『犬夜叉(これはなぜ?)』、『サムライチャンプル』、『妄想代理人』と共に「アダルト・スイム」というTV-14(14歳以下の児童に不適当な箇所あり。保護者の判断が必要である)指定をされ、夜に放映されていた。ところが朝早くCNNなんて見ると、「銃撃戦で父親が盾にした女児死亡、体内からコカイン検出」とか、「性犯罪者が近くに住むことになった町の住民の反応」などのアダルト(?)なニュースをガンガン流している。いくらアニメを規制したところで子どもが見ればその欺瞞にすぐ気づくだろうに……。

  このハガレン、スラッシュ君にとっては声優のキャスティングが特に良かった。主役兄弟のエド・アル役も良かったが、カップリングが容易なロイ・ムスタングとマース・ヒューズが『スタートレック・ディープスペース・ナイン』の仕立屋ガラックさん(大川透)と初代ドクターベシア(藤原啓治)コンビだったのには感激した! 近頃、大人気ゲーム『戦国無双』の真田幸村と、『サムライトルーパー』の真田遼が同じ声優(草尾毅)だったり、『トリニティー・ブラッド』に『ラブレス』の皆川さんと小西さんのコンビがコンビで登場、似たセリフを言わせるとか、やおいCDドラマ『負け犬のなんでも屋』(注8)の因縁の作曲家コンビの関俊彦と池田秀一が『ガンダム・シード・デスティニー』でギル議長とレイ・バレルだったりと、腐女子に「萌え」を感じさせる声優のキャスティングが増えている。で、その萌えだけで「このアニメ最後まで見ようかな」とか思わせたりする(笑)。今後ますます声優キャスティング業は重要になってくるだろう。

  さて映画の内容だが、全くのオリジナルストーリーで、舞台はミュンヘン一揆直前のドイツ。ジプシー差別問題などを通じて、「異質な者への無知から来る無意味な差別」を痛烈に批判していた。ミュンヘン一揆はもちろん、フリッツ・ラングも知らないスラッシュ君の娘には内容が十分理解できたとは思えないが、かなり楽しかったらしく、同じ頃、テレビで放映されていた昨年のNARUTOの映画を「子どもっぽい〜」と鼻で笑っていた。萌えが少なかったせいもあろう。ハガレンの映画はロイとエドの再会シーンがかなり萌えであったから。娘にも是非、あと5年くらい経ったらまた見て欲しいものである。

  というわけで内容的なせいか観客は大人のほうが多く、女性のグループ、男性のグループがメイン。子どもやカップル客は少なく、逆に外人のグループ客がちらほら。ハガレンは世界中で放映しているし外国人人気も上々なので、スラッシュ君も海外の知り合いから「前売り券はどうやって買えるのか?」なんて去年のうちから聞かれたりしていた。


<アジア腐男子と盛り上がるアニメヨタ話>

  その知り合いのうちの一人は東南アジアに住むゲイの青年で、向こうではなかなか買えない同人誌やアニメイトグッズをスラッシュ君に「買ってくれ」とメールで頼んできたことから知り合いなった。今年は日本に来て日本語学校に通っている(注9)。卒業したら専門学校へ行き、アニメ制作か声優養成のクラスに入りたいそうだ。

  この青年、時々スラッシュ君の会社に遊びに来て、社員食堂などでアニメ話をするのだが、ノリは日本人のアニメファンと全く変わらない。

スラッシュ君(以下「ス」)「最近、ガンダム・シード・デスティニーが面白くて困っちゃうよ」
アジア人青年(以下「ア」)「僕も〜! すごーく面白い(泣)。でもシンは嫌いッ」
ス「アハハ。みんなそうだよ。嫌われ役狙ってるんでしょう。シードのビッチな女の子みたいな、えーと……」
ア「フレイですね」
ス「あ、そうそう(笑)。フレイ。で、今回は女難アスランがメチャ人気みたい。同人誌とか。スラッシュ君はもちろん議長とレイ・バレル」
ア「レイは声優だれでしたっけ?」
ス「関さんだよ」
ア「俊彦さんのほう?」
ス「そうそう。今週はレイが『(私の)ギル』とか言っちゃって、もう〜(悶絶)」
ア「僕は何と言ってもキラですね」
ス「キラも人気あるよね。娘の学校の七夕の短冊に『キラが死にませんように』って書いてあったを見たって娘が笑ってた。で、『バジリスク』見てる?」
ア「見てる見てる。GONZO、最高!」
ス「最初、汚くて参ったけど、そういうキャラはどんどん死んでいってくれたから最近は嬉しくって。天膳サイコー」
ア「アハハ」
ス「『ガラスの仮面』は見てる?」
ア「見てますけどやっぱり古いですね」
ス「さすがにそっか。ギャグとしては楽しめないかー。速水って速水さんだったら良かったのにって最初思った。漫画で読んでいる時は速水さんだったら(笑)。でも森川さんも合ってる。ギャラリーフェイクの藤田みたいに、いつ『〜〜でっせ』って言うかハラハラして見てるけど(笑)」

  何てことはない腐女子オタ話だ。でも相手は日本人じゃないし、男性(しかももう少しで親子ほどの年齢差)なんだと思うと感慨深いものがある。会社にはスラッシュ君が読み終わったやおい漫画を一部置いているので、「何か好きなやつあったら、持ってく?」と尋ねたところ、ものすごい真剣に30〜40冊選んでいった。それにしても男性がこんなにも嬉しそうにやおい漫画を手に取る風景なんて生まれて初めて見た。同じ職場の女性ですら、スラッシュ君からやおい漫画を借りる人が一人もいないというのに。

  人種や性別や世代が同じことより、同好の士であるかどうかが、これからのネット社会ではずっと「近しい」ことなのだなあとつくづく実感した出来事だった。

  そして趣味が違うとこんなにも分かり合えないのかという衝撃の事実にスラッシュ君は打ちのめされた。


<少女漫画を規制すべきだという驚くべきスレが>

  前述の受験サイトの中の「中高一貫校の生活」という掲示板に「少女漫画にビックリ」というスレがあった。

  題名を読んだスラッシュ君は「あれ? やおい漫画ならともかくヘテロ漫画である少女漫画がなぜ悪いの?」と不思議だった。スレ主の発言を読むと娘の友達が貸してくれた少女漫画にセックス描写があり、どうしたらいいか? と訴えていたのだが、この21世紀にセックス描写がダメなのか? と全く理解できなかった。

  ストーリーに必然でない安易なセックス描写がある漫画を読むとリアルライフでも簡単にセックスを許すような娘になるというのである。本当だろうか? この夏始まったアニメでは奇しくも「主人公を朝、やさしく起こしてくれて手の込んだ朝食を作ってくれる」エピから始まるアニメが3本もあった(笑)が、そういうのばかりを見ていると、本当に現実の恋人がそういうことをしてくれると信じるようになるのだろうか? そういう欲望を抱き、現実で満たされないと犯罪に走る、風俗に入れ込むようになるのだろうか。そんなマンガみたいな話、ありっこないと思うだろう。フツー。

  そしてそのスレの後半ではこの夏、娘が友達とコミケに行きたいと言い出したがどうしたらいいか? という話題が続いていた。母親たちは「コミケは変態も集まっているから絶対に行かせない」という。初期の頃のMacExpoでアダルトコーナーを1カ所に集めるうんぬんという騒ぎがあったが、娘が心配な母親は同じ建物内にそういう輩がいること自体が許せないらしい。

  でもイベントって、いろんな趣味の人が集まっていて、そこに行けば自分と同じ趣味の人が見つけられるから意義があるのに……。自分の好みじゃないものは存在すら許さないというのだろうか。娘は「そういうのには行かないから!」と抗弁しているが聞く耳持たなそう。親は同人誌自体を好きじゃないので、イベントに一緒に行ってやるという選択肢ももちろんない。

  こういう母親たちの要望は「行政機関による規制」。セックスシーンが多すぎる少女漫画を検閲して流通できないようにするか、未成年が自由に読めないように規制するか、らしい。スレ内にはこの手の少女漫画はダメだが。内容があるもの、例えば、萩尾望都、竹宮恵子のような大御所のホモ漫画とか、「よしながふみの三暮本」などは別という人もいる。でも「この漫画のセックス描写はダメ」だが「この漫画はOK」とか行政機関が公平に判断して、その判断基準をちゃんと公開できるだろうか? 自分の嫌いなものには法律による規制を許しても、自分の好きなモノは規制されないと本気で信じているらしい。


<「女子」中高一貫校を受験させる親というものは>
 
  同じ日本人でも全然違う人たちだとスラッシュ君は震撼した。中高一貫校を受験させる親というのは「国というものに頼りたくない」、「自己責任を貫く人」ばかりと思っていたのに全然違っていた。

  それはこのスレが「少女漫画」を話題にする親、つまり私立女子校の親が集まっていたスレだったからかもしれない。冒頭、スラッシュ君が書いた通り、ほとんどの女子校はいまだに良妻賢母教育&キリスト教系の学校なのだ。少女漫画にセックスシーンなんてもってのほかなのだろう。

  ブッシュを再選させた宗教右派やネオコンのいるアメリカは怖いとさんざん文句を言ってきたが日本だって同じ人たちが身近にいたのだ。

  そういう母親たちに比べたら例のアジア人青年のほうがよっぽど自分と近い。これは困った。スラッシュ君は取り返しの付かない選択をしてしまったかもしれない。

  娘の学校にも多くはないが厳しい家庭の子もいて、アニメやゲームから無縁の子もいるようである。ああ、恐ろしい! 

  とりあえず娘には以下の2点を守るようきっちり話しておいた。

1)そういう真面目な家庭の子にはオタクな話はしない。特にセックス描写のあるものは見せない。
2)万一ばれても攻撃されないよう数学と英語はちゃんと勉強しておいてほしい

  「オタクはどこでも肩身が狭いんだね」と苦笑しつつ、娘は理解してくれたようだが、いかんせん、まだ12歳。自分以外の価値観を認めない大人からの容赦ない攻撃にさらされては抵抗できないだろう。

「お堅い家庭の親子には絶対に近づいてはいけません!」
 
  な〜んて狭量なことは言いたくないが、子どもが成人するまでは仕方ないのかもしれないとスラッシュ君は思うのだった。

(次号へ続く)

注1:白鴎では三木武夫元首相夫人で白鴎高校卒業生の三木睦子さんの訴えも虚しく「つくる会の教科書」採択され、さらにこの夏、来春開校する両国高校付属中、小石川中等教育学校、桜修館中等教育学校(都立大付属高校の改編)でも採用が決定した。が、こちらの掲示板を読むと、作る会の教科書でもオッケー、いやむしろ大賛成という親が意外に多いことが分かる。(

注2:「パパは何でも知っている」というナッピさんのパパの日記がある日「突然消えた」というニュースが受験ネット界に走った。それで存在を知ったスラッシュ君は慌ててキャッシュを集めて読んだが、中には残っていないものもあってかなり残念だった。要するにナッピさんが成績が良く、それが許せない他の母親からの攻撃でナッピパパさんが日記を止めたのである。これを読んで「ネットで受験体験を公開できるのはデキナイ子の親しかない!」とスラッシュ君は肝に銘じた。(

注3:有名なのは「ミスター・ツカム」という人の日記で、この人の「愛のメモリーという」受験CDは一度聞いてみたかった。また、まぐまぐのメルマガ、 新「勉強の常識」を出しているストロング宮迫の「親技」っていうのも、「子どもの受験をさせる前にまず親の教育!」というのが痛快で結構読んだ。親への教育はなかなかいいマーケットだと思った。(

注4:パズルコーナーは最初、「合格パズル、強育パズル」「強育論」の著者であり、宮本算数教室を主宰するカリスマ算数教師、宮本哲也氏が執筆していた。彼の教室では6年の後期、ケアレスミスをするとためたポイントを一気に失うシステムを取り入れているそうだ。ゲーム好きな子にはたまらない調教法だろう。(

注5:「自分はテストはできる」と勘違いした東大生が、準備不足のために運転免許の学科試験で落ちたり、ゼネコンに就職し、ダイナマイト試験に落ちるヤツがいるのも同じ理屈だ。和田秀樹、「百マス」の陰山英男に並ぶ、受験ママに絶大な人気を誇る受験界のカリスマ「声に出したい日本語」の斎藤孝も著書『圧勝! 受験なんてヘッチャラだ』の中で「準備不足で簡単な試験に落ちた」体験談を披露している。斎藤孝っていつも「ああ、あるある!」というピッタンコなケースを絶妙なタイミングで繰り出すから、本が売れるのも分かる気がする。(

注6:本人が意識しなくても、もしくは、ゲームは良くないと思っていても漏れてしまう場合がある。「高校への数学」4月号の冒頭のコラムで出版元の経営者・黒木正憲氏が「一寸光陰不可軽」というタイトルでこんなことを書いていた。中学2年だった黒木氏は当時、貸本屋に入り浸り、講談本を読み耽り、先輩たちと連珠(五目並べ)で遊び、「急激に上達し」、ついには夜店の「連珠屋」を負かせるほどになったそうだ。そんな折、母親に「なんのために中学へ入ったの」と言われ、黒木少年は心を入れ替えた。当時の中学は月謝も高く、小学校から中学へ進学できる生徒は数えるほどだったそうだ。貸本屋通いを止めた黒木氏はその後、算数を先取り勉強することに夢中になったという。若いうちの学問がいかに大事かを説いているのだが、スラッシュ君には同じ能力の応用先がちょこっと変わっただけに思えてならなかった。(

注7:この歳になって初めてヤマハから出ている楽譜本&ハンドロールピアノを買い、主題歌を弾いたりしてしまった! でも超初心者用楽譜なのだが難しい(汗)。頼むから片手で弾ける『ブラーチャ』とか出してほしい(笑)。(

注8:同名のコミックス(菅野彰原作、麻生海絵)が今年発売されたが、元はBLラジオ番組『ルビーにくちづけ』内で放送されていたラジオドラマから生まれたドラマCD。自分に限界を感じた元人気作曲家中川幹彦(関俊彦)を含む人生の負け犬・三人組が始めた「なんでも屋」に中川の元妻から作曲の依頼がくる。そこにトンデモ系天才作曲家・高橋遼一 (池田秀一)がゴーインに関わってきて……。(

注9:来てスグ会った時、アニメイトやメッセサンオーなどの会員証をズラッと見せてくれた。お金はどうしているのか? 親はどういう人なのか? 聞きたいけど怖くて聞けない……。(

[文:スラッシュ君 050809]

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